「負け組」のシャープ、東芝
一方で、戦略転換に苦戦し、厳しい状況に直面している企業もあります。シャープ<6753>と東芝は、かつての日本を代表する電機メーカーでしたが、現在は大きな転換点に立たされています。
シャープの場合、液晶パネル事業への巨額投資が裏目に出ました。世界最大規模の液晶工場への投資は、予想を上回る市場価格の下落と需要の低迷により、同社の財務基盤を著しく悪化させました。2016年には台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収され、日本の代表的企業の一つが外資系企業の傘下に入るという衝撃的な結末を迎えました。買収後は徹底的なコスト削減と事業再編により一時的な業績回復を見せましたが、持続的な成長軌道に乗せるには至っていません。
東芝の状況はさらに深刻です。長年培われた縦割り組織文化と各事業部門間の過度な競争が、経営の透明性と健全性を損なう結果となりました。2015年に明らかになった「チャレンジ」と呼ばれる組織的な会計不正は、同社の信頼を根底から揺るがし、上場廃止の危機にまで発展しました。この危機を乗り越えるため、東芝は将来性のあった医療機器事業(現キヤノンメディカルシステムズ)や花形だった半導体事業(現キオクシア)を売却。さらに2021年には3社に分社化する計画を発表しましたが、株主の反対により頓挫。結局、2023年に上場廃止となり、130年以上の歴史を持つ名門企業は、ファンドの傘下で再建を目指すこととなりました。
これらの事例は、急速に変化するグローバル市場において、過去の成功体験にとらわれず、時代の要請に応じた大胆な経営改革の必要性を如実に示しています。同時に、コーポレートガバナンスの重要性と、持続可能な成長戦略の構築が、現代の企業経営にとっていかに重要であるかを物語っています。
「危機的な状況」を本当に感じているか?
パナソニックの現状を分析すると、明確な成長戦略の欠如と組織改革の遅れが浮き彫りになります。同社は従来の家電事業に加え、自動車関連技術やテスラ向けの車載用リチウムイオン電池など、新たな事業分野に進出を図っています。しかし、これらの取り組みは表面的な変化に留まっており、根本的な経営構造の転換には至っていないように見受けられます。
特に懸念されるのは、依然として強固なセクショナリズムの存在です。各事業部門の独立性が強く、全社的な戦略の一貫性や相乗効果が見えにくい状況です。これは投資家にとって企業価値を正確に評価することを困難にしています。
経営陣は収益性重視の姿勢を打ち出していますが、実際の事業ポートフォリオの最適化は進んでいないように見えます。多岐にわたる事業領域の中で、どの事業を成長させ、どの事業を縮小または撤退するのか、明確な方針が示されていません。
さらに憂慮すべきは、若手人材の流出傾向です。転職サイトの口コミ情報によると、将来性への不安から若手社員の離職が増加しているとの指摘があります。これは長期的な企業競争力の維持に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
一方で、パナソニックは赤字に陥っているわけではなく、一定の収益力は維持しています。しかし、この状況が逆に危機感の欠如につながっている可能性があります。CEOが危機的状況を訴えているにもかかわらず、全社的な改革の機運が高まっているとは言い難い状況です。
※参考:パナソニックHDはなぜ“危機的状況”なのか、楠見氏が語るその理由 – ITmedia(2024年5月23日配信)
2022年4月に持株会社制へ移行し、事業会社の自主責任経営を掲げていますが、この組織改革が実質的な変革につながるかは未知数です。真の意味での事業構造の転換と、グローバル競争力の強化に向けた本格的な改革が実行できるか否かが、パナソニックの将来を左右する重要な岐路となっています。

