<要因その3:投資家の需給バランス>
REIT指数の下落を理解する上で、投資家の需給動向も重要な視点です。
日本取引所Gが出している投資部門別の売買状況とREIT指数の推移を比較しながら分析します。

東証REIT 月足(SBI証券提供)
過去のデータを見ると、指数が上昇していた2019年と2021年には、海外投資家が積極的に買い越していました。しかし、2022年以降は海外投資家と国内法人が売り越しに転じ、特に2024年にはその傾向が顕著になっています。
個人投資家はNISA効果や高利回りに期待して買いを入れていますが、国内法人と海外投資家の売り圧力に対抗するほどの影響力は持っていない状況です。
国内法人の動きに関しては、銀行や投資信託による売りが目立ち、REIT市場の需給バランスが悪化していることが読み取れます。
特にREITの主要な買い手の一つである地方銀行は、2019年ごろにREIT投資を積極化させました。当時の低金利環境下で、少しでも高い利回りを求める動きが広がり、地方銀行を中心としたマネーがREIT市場に流入し、指数を押し上げていました。
しかし、この時期に購入したREITの価格が現在下落していることで、多くの金融機関が含み損を抱えている可能性があります。一方で、株式市場が好調なため、株式の含み益とREITの含み損を相殺するような売買が進みやすい状況です。このような動きが市場に追加的な売り圧力をもたらしていると考えられます。
また、海外投資家の売り越しは市場全体の下落に直結する重要な要因といえます。海外投資家の動きが鈍い中、国内法人も積極的な買いに転じていないため、市場全体として需給バランスが悪化していると考えられます。
つまり、REIT指数が下落している理由としては、金利動向の先高観と需給バランスの悪化が挙げられます。特に、重要な買い手である海外投資家の売り越しがREIT市場に与える影響は大きいといえます。
一方で、オフィス空室率の改善や収益性の安定性を踏まえると、下落が過度に進んでいる可能性もあり、投資チャンスがあるかもしれません。
以上を踏まえて、投資判断を行います。
利回りに期待して買って良い?
ここまでをまとめます。
- 国内リート市場の特徴:国内リートはオフィスの割合が高いものの、米国と比較すると空室率の悪化リスクは低く、全体的な市場動向は悪くない
- 収益性:分配金総額が上昇していることから、多くのREITで収益は増加傾向にあり、資産価値が大きく下落している兆候は見られない。
- 投資家の動向:大口の海外投資家の買いが少ない一方、個人投資家が積極的に買いを入れている状況。ただし、国内法人は動きが鈍く、全体として需給バランスの悪化が課題。
これらを踏まえると、現在の不動産市場の事業環境は安定しており、一定の投資チャンスがあると考えられます。
ただし、今後の経済環境の悪化や予想外の金利上昇があれば、さらなる下落を引き起こす可能性もある点には注意が必要です。
これらを踏まえて投資判断についてお伝えします。
分配金に期待するのであれば、REITは投資を検討する価値があるでしょう。REITは元来、インカムゲインを目的とした金融商品であり、利回りを見て判断することが合理的と言えます。以下は代表的なREITの分配金利回りです(24年12月19日現在)。
- 日本ビルファンド投資法人(8951): 3.91%
- 野村不動産マスターファンド投資法人(3462): 5.12%
- 日本都市ファンド投資法人(8953):6.35%
これらの銘柄を含め、気になるREITを探してみてください。不動産投信情報ポータルが参考になります。
ただし、キャピタルゲイン(値上がり益)を狙う投資には注意が必要です。投資法人は自ら不動産の開発を行うことができず、利益の大半を分配する仕組みのため、成長に向けた積極的な再投資が難しいのが現状です。
そのため、既存の銘柄は長期的に基準価額が上昇しているとは言えず、キャピタルゲインを狙う投資の魅力は限定的といえるでしょう。
そのため、分配金を受け取りながら、じっくりと長期的な視点で投資を行う戦略が有効と考えられます。
これらの情報をもとに投資判断をしてみてください。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取り扱いには十分留意してください。
『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2024年12月19日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。