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サプリ疑惑で退任した新浪剛史氏の真実。ローソン、サントリーを大躍進させた「劇薬プロ経営者」を投資家はどう見るべきか=栫井駿介

ローソン社長時代:コンビニ業界の常識を覆す改革者

三菱商事での出世街道を歩む新浪氏の前に現れたのが、当時のローソンという存在でした。ローソンは元々ダイエーの子会社でしたが、2000年代初頭の当時、セブン-イレブンという絶対的王者には及ばず、正直「いまいちパッとしない」状況でした。親会社であるダイエーも経営危機に陥っており、資金調達のためにローソンの売却を考えていました。

この時、ローソンは三菱商事に株式を売却し、三菱商事がローソンの経営権を握ることになります。当初、三菱商事は側面支援のつもりでしたが、ローソン側からの要請もあり、社長を派遣することになります。当時、大企業の社長に外部から若手が就任することは異例中の異例でしたが、ローソン再生のためには「元気のいい若手」が必要だと考えられ、新浪氏に白羽の矢が立ったのです。

<V字回復を実現した苛烈な改革>

ローソン社長に就任した新浪氏が最初に行ったのはリストラでした。彼は「リストラは最初の1年でやり、その後はV字回復させる」と語り、業績の一時的な悪化と、その後の回復を演出する経営手法を取り入れました。

特に目を引いたのは、それまでの商品部を「一掃」し、外部から新たな人材を連れてきたことです。かつて「花形」とされていたバイヤーたちは、メーカーから頭を下げられる立場にあり、傲慢になっていたと指摘されています。新浪氏はこうした旧態依然とした体質を改革し、先述のソデックスコーポレーションでの経験を生かして、おにぎりの品質向上に着手します。新潟県魚沼産コシヒカリのような良質な米を使い、具材もパサパサの鮭フレークではなく、塊の鮭を入れるなど、徹底的にクオリティを追求しました。その結果、高価格帯ながら「おにぎり屋」というコンセプトのおにぎりは大ヒットし、ローソンの特徴の1つとなりました。

さらに、フランチャイズ改革も断行しました。それまでローソン本部はフランチャイズオーナーを「お客様扱い」し、甘やかしていた結果、店舗の清掃状況や運営が適当になる問題がありました。新浪氏はミステリーショッパー制度を導入し、覆面調査員が店舗を採点。評価の低い店舗は容赦なく閉店させるという過激な手段を取りました。

これにより、コンビニ業界で増え続けていた店舗数が一時的に減少するという異例の事態も発生しました。これらの改革により、ローソンはセブン-イレブンには及ばないまでも、競争から脱落することなく、コンビニ業界のトップランナーの一角として残ることに成功しました。

リーダーシップの光と影:パワハラ疑惑

ローソンでの成功の裏側で、新浪氏のリーダーシップは「パワハラ疑惑」という影も落としていました。彼は自らの意に沿わない部署を実質的に解散させたり、フランチャイズオーナーを締め付けたりと、まさに「俺がやるんだから俺の言うことを聞け」というトップダウンを徹底しました。

現場の担当者たちは、新浪氏の厳しい詰め方に疲弊し、顔が老け込んだり、ストレスから病気になる者もいたといいます。証言によれば、会議中に携帯電話を投げつけることもあり、予備として3台の携帯電話を持っていたというエピソードも残されています。2000年代初頭という時代背景を考慮しても、現在であればコンプライアンス的に問題となるような行為だったと指摘されています。

新浪氏のような有能な人間にとって、部下の「できない」ことが理解できず、パワハラ的な行動に走ってしまう側面があったのかもしれません。一方で、彼は若手や社外に対しては「良い人」という評判を立てることもあり、世間と内部での評価にギャップがあったのではないかと想像しています。

また、私生活では3度の離婚と4度の結婚を経験しているという事実も存在します。

しかし、これらの事実とは別に、ローソンで12期連続増益を達成したという実績は、彼の経営手腕を物語る確かな成果として存在します。

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