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なぜユニ・チャーム1年で株価35%下落?中国苦戦とインド成功から見えた投資リスクと成長戦略=栫井駿介

偽造品問題という新たな打撃

さらに、直近の四半期の大きな下落には、それ以上の問題がありました。それが偽造品問題です。

中国の国営テレビ番組「世界消費者権利デー」(毎年3月に民間企業の不正などを取り上げる人気番組)で、複数の工場で日本ブランドの偽造品が大量に製造されている現状が報じられました。特に、ユニ・チャームの製品(ソフィーなど)と見分けがつかないパッケージの偽造品が取り上げられたのです。これらの偽造品は、品質が非常に悪かったと報じられています。

この報道は、直接的には偽造品を作っている企業を批判するものですが、間接的にユニ・チャームも被害を被ってしまいました。一般の消費者は、市場に出回っているユニ・チャーム製品が本物か偽物か見分けがつかなくなってしまったのです。特に「ユニ・チャームの偽物が出回っているらしい」という認識が広がり、「それなら偽物ではないと思われる中国製品や他の製品を買おう」という動きにつながったと考えられます。この影響は、特にSNSの影響力が強い上海などの都市部で大きかったようです。

ユニ・チャームは「偽物は古いパッケージの商品であり、既に製造していない」と説明しましたが、消費者はそのような細かい違いを見分けられないため、ユニ・チャーム製品を敬遠するようになりました。また、「偽物ではない」ということを改めて伝えるために、マーケティング費用が増加してしまいました。これが、売上減少とコスト増加(利益減少)の両方にかかってきている、足元の中国市場の状況なのです。

これまでの成功要因:新興国開拓と社員の努力

しかし、ユニ・チャームがこれまでの成長を遂げてきたのには明確な理由があります。

ユニ・チャームのこれまでの成功は、特に東南アジア(ベトナム、インドネシア、タイなど)への進出が非常にうまくいったことにあります。経済成長が本格化する前に市場に参入し、紙おむつや生理用品の需要が拡大する前にシェアを抑える戦略が奏功しました。一度認知度を高め、シェアを獲得すれば、その後はリピート購入によってシェアが維持され、経済成長に伴って売上が拡大していくという、消費財の特徴をうまく捉えた戦略でした。

ただし、これは単に進出すれば良いというものではありません。現地の文化、風習、経済状況などを深く理解し、現地のニーズに合った製品(価格帯なども含む)を開発し、その地域で受け入れられる販売方法を徹底的に考え抜く必要があります。また、現地での製品製造や輸送体制を効率的に整える地道な努力も不可欠です。

このような生半可ではない努力が実り、インドネシア、タイ、ベトナムなどで高いシェアを獲得することに成功しました。インドネシアではキンバリークラークに押される面もありますが、生理用品はシェアを維持しており、ベトナムでは右肩上がりに順調にシェアを伸ばしています。

そして、このような海外市場での成功を支えてきた本質的な要因は、社員のたゆまぬ努力にあると考えられます。

ユニ・チャームには「SAPS経営」という独特のマネジメントモデルがあります。これは、週単位で計画(Schedule)→ 実行(Action)→ 効果測定(Performance)→ 共有・次計画への反映(Schedule)経営層と従業員がハードに働く姿勢こそが、ユニ・チャームの強さの源泉と言えるでしょう。このハードな努力と、新興国への早期進出・シェア獲得戦略がうまく組み合わさって、これまでの成長につながってきたのです。

今後の課題と長期的な展望:新たな成長の柱

ユニ・チャームの今後の成長にはいくつかの課題と希望があります。

<新興国での競争激化への対応>

前述のように、新興国では地元企業の成長による競争が激化しています。これに対して、ユニ・チャームは単に先駆者であることに安住せず、製品の質を磨き続け、現地のニーズにしっかりと応えるマーケティングを継続していく必要があります。守り続けるには、シェアを取るのと同じくらい、あるいはそれ以上の労力が必要です。

Next: 長期投資家はどう見るべき?今後の課題と長期的な展望

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