タカラトミーの「弱者の戦い方」:ランチェスター戦略
このような中で、タカラトミーはどのように戦ってきたのでしょうか。それは、まさに「ランチェスター戦略」と呼ばれる「弱者の戦略」を採っていると分析できます。
タカラトミーは、「オリジナル玩具をコアファンに届ける」という方向性をとっています。トミカ、ベイブレード、プラレールといった自社IPに焦点を絞り、これらの分野に関してはバンダイナムコに負けないという戦略です。
具体的な戦い方としては、自社のオリジナル玩具と他社IPを巧みに組み合わせることで、コアファンに響く商品を展開しています。例えば、エヴァンゲリオンとコラボしたトミカや、ルパン三世のベンツのトミカなどがあります。これらは「トミカというジャンルだからこそ作れる」商品であり、バンダイナムコには真似できない領域と言えるでしょう。

トミカやプラレールは、その商品自体に特定の強い世界観がないため、良い意味で汎用性が高く、様々なコラボレーションがしやすいという特性があります。これにより、「このIPとのコラボならトミカしかない」というニッチな市場で、深いファン層を獲得しているのです。
ランチェスター戦略とは、強大な相手に対して全方位で戦うのではなく、特定のごく狭い領域に集中し、そこで圧倒的な優位性を築いて勝つという戦略です。織田信長が今川軍に勝利した桶狭間の戦いも、これに例えられます。タカラトミーはこの戦略により、規模では劣るものの、特定の分野で強固な地位と利益率を確保していると考えられます。
今後の展望と投資戦略
今後のタカラトミーですが、直近ではベイブレードや新しいトレーディングカードゲーム(ディズニーのTCG)への期待が高まっていましたが、足元では期待を下回る結果となりました。トレーディングカードゲームは、初期のヒットがその後の成功を左右する傾向があるため、再起は難しい状況かもしれません。
エンターテイメント業界は「当たり外れ」の予測が難しく、事前にヒットを予想するのは困難な部分があります。しかし、タカラトミーはトミカやプラレールといった非常に強い基盤となる商品を持っています。もし今後、再びヒット作が生まれれば、大きく業績を伸ばす可能性は十分にあります。
タカラトミーへの投資戦略を考えるなら、2つのアプローチが考えられます。
<戦略その1:割安株投資>
ヒットが生まれず株価が下がり、PERが割安になったタイミングで投資するアプローチです。プラレールなどの安定した売上とそれに伴う配当が期待できることに加え、もしベイブレードのようなヒット商品が再び生まれれば、株価が大きく上昇する「カタリスト」となるでしょう。現在のタカラトミーのPERは約20倍で、エンタメ系の企業としては比較的低い水準にあります。
<戦略その2:コアファン視点での投資>
ホビーや玩具に詳しい方が、「これは今、密かにヒットしつつある」と敏感に気づいたタイミングで投資するアプローチです。アナリストが数字を分析するだけでは見えない、現場での熱量や流行の兆しを捉えることができるかもしれません。
タカラトミーは、キダルト戦略とランチェスター戦略を巧みに組み合わせることで、独自の強みを発揮してきました。足元では一時的な伸び悩みが見られますが、そのユニークな戦い方と強固なブランド力は依然として健在です。今後の動向に引き続き注目していきましょう。
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『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2025年6月19日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。