<経営層に見えない「顧客」>
現在の経営資料では、「成長路線への回帰」「コスト削減」といった言葉が並ぶ一方で、「そもそも資生堂の強みは何なのか」「顧客が何を求めているのか」といった、マーケティングの基礎となるべき顧客視点についての言及が全く見られません。これは、経営層が会社の真の価値を見失っていることの現れであると言えるでしょう。
今後の展望と投資家への提言
<短期的な株価と会計上の影響>
今回計上された520億円という巨額の赤字は、構造改革費用や一時費用(米国買収の減損損失など)を集中計上した結果でもあります。
これは、経営層が交代した際によくあるパターンで、前任の「負の遺産」を一気に清算し、来期以降の利益を増やしやすくする会計上の工夫です。例えば、のれんの償却を今期で終えれば、来期以降はその費用がなくなるため、数字上は利益が増えます。そのため、短期的な株価はこれらの会計効果に反応し、復活する可能性は十分にあります。
<長期的な懸念と投資判断>
しかし、長期的に見た場合、上記で指摘した「顧客視点の欠如」や「ブランド価値の希薄化」といった根本的な問題が解決されない限り、資生堂はジリ貧に陥る可能性があります。
また、現在の株価は、大きく下落したとはいえ、決して割安ではありません。PBR(株価純資産倍率)は約1.95倍と、競合他社と比べても高い水準にあり、業績が振るわなければ、さらなる下落余地は大きいと言えます。
<投資家へのメッセージ:顧客視点の重要性>
企業を評価する際、経営者やアナリストの意見だけでなく、「その企業の価値は何か」「顧客がなぜその会社の製品を買うのか」という顧客にとっての価値を突き詰めて考えることが重要です。
実際にお客様として日々の商品に触れている個人投資家こそが、専門家よりも本質を見抜いているかもしれません。ぜひご自身の感覚に沿って企業を見てみてください。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取り扱いには十分留意してください。
『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2025年11月18日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。