◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「エネルギーが戦略的結節点へ:地経学的競争の中で変化する中国の地政学的空間(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
※この論考は2025年3月5日の<From Energy to Strategic Nodes: Rethinking China’s Geopolitical Space in an Era of Geoeconomic Competition>(※2)の翻訳です。
4.制度的競争と技術的結節点:領土の支配からネットワークの力へ
現代の米中対立に見られる特徴の一つは、従来の地政学的競争から地経学的・制度的競争への移行にある。歴史的に、大国間の対立は領土、軍事力、同盟体制を中心に展開してきた。しかし、経済が高度にグローバル化された現在では、真の力はグローバルネットワークに欠かせない結節点にあることが多い。
世界経済の戦略的結節点として機能するようになったのが、エネルギー市場、金融決済システム、先端技術のサプライチェーンだ。
この文脈において、「戦略的空間」の意味は変化している。力はもはや主に領土の支配によって決まるのではなく、半導体技術、金融決済システム、エネルギー輸送経路といったグローバルネットワークの重要な結節点に影響を及ぼす力があるかどうかで決まる。
ヘンリー・ファレルとアブラハム・ニューマンが提唱した「相互依存の武器化」という概念は、有益な分析的視点を提供してくれる。国家は、世界経済ネットワークの重要な結節点を掌握することで、制度・規制上の仕組みを活用して他国の経済行動をコントロールできる。
この構図は半導体産業で特に顕著だ。世界のチップ供給網はいずれかの国が支配しているのではなく、複数の技術的結節点に分散している。米国はチップ設計とEDAソフトウェアを掌握し、日本は基盤材料と製造装置部品を支配し、オランダはASMLを通じて中核技術のEUV(極端紫外線)リソグラフィーを握っている。
このネットワークにおいて、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)は高度な半導体製造で最も重要な結節点の一つとして台頭した。3ナノメートルや2ナノメートルという最先端の製造プロセスを持つTSMCの生産能力は、世界の技術エコシステムの根幹を支えている。結果として、半導体のサプライチェーンが地政学的競争の鍵を握る状況となっている。
地経学的観点から見ると、このように技術力が戦略的結節点に集中すると、技術産業は大国間対立の手段に変容する。中国の半導体産業を標的とした米国の輸出規制は、サプライチェーンの要所を掌握することで技術的優位性を維持しようとする試みを反映している。一方、中国の産業政策と国家主導の投資は、自国外の技術的ボトルネックへの依存を減らすことが目的だ。
したがって、戦略的空間はもはや地理的な意味でのみ理解するべきものではない。エネルギー輸送、金融決済、半導体製造のいずれであれ、世界経済ネットワーク内の重要な結節点を押さえることで影響力を高められる。
ネットワーク化された新たな地政学では、領土よりも結節点を支配することの方が重要になってくる。その意味でTSMCは単なる企業ではなく、技術的・戦略的なパワーバランスに影響を及ぼす地政学的結節点だと言える。
5.両会と米中首脳会談:外交日程と戦略的シグナル
中国の戦略的姿勢を分析するには、中国政府の政治日程にも注目する必要がある。毎年開催される両会(全国人民代表大会と中国人民政治協商会議)は、中国が政策の優先事項を示す重要な場となっている。
最近の政策論議では、サプライチェーンの安全保障、技術革新、高度な製造業が強調され、産業の自律性と技術競争力の強化に向けた中国政府の決意が明確に表れている。
同様に重要なのは、国内政策のシグナルと外交日程の関係だ。観測筋は、3月末に米中首脳会談が行われる可能性を注視しており、これを前に高官級の経済協議が行われる。
一方、イランなど中国にとって重要なエネルギー供給国を標的にした米国の制裁と圧力は、首脳会談を巡る外交環境を地政学的にさらに複雑にしている。
その意味で、両会と首脳会談はより広範な戦略の一環と見なすことができる。両会は中国の国内政策の方向性を示すものであり、首脳会談は大国間の競争が繰り広げられる対外領域を表すものだ。
6.結論
現代の地政学的競争はもはや領土紛争や軍事的対峙などで定義されるものではない。それに代わって、サプライチェーンや制度的ネットワークの再構築が焦点となりつつある。現在の戦略的空間は、地理的境界よりも、グローバル経済の重要な結節点に影響力を及ぼせるかどうかで決まる。結局のところ、21世紀の大国間競争で最大の問題は、誰が領土を支配するかだけでなく、世界のネットワークを規定するルールを誰が書き換えられるかにかかっている。
「エネルギーが戦略的結節点へ:地経学的競争の中で変化する中国の地政学的空間(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
ホルムズ海峡と石油 (写真:ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/7187
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