◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)陳建甫博士の考察を2回に渡ってお届けする。
※この論考は2025年3月9日の<Old Wine in a New Bottle? When Economic Integration Meets Security Alignment: Rethinking China’s Taiwan Policy in the “15th Five-Year Plan”>(※2)の翻訳です。
中国の年次「両会」期間中、中国政府は中華人民共和国国民経済・社会発展第15次5カ年計画綱要を公表した。その第60章は「両岸関係の平和的発展の促進と祖国統一の大業の推進」という見出しで、台湾問題に特化しており、「両岸経済協力の推進」と「両岸交流の深化」という二大政策を中心に構成されている。
綱要には、中国本土における台湾企業・住民への優遇政策の継続、中国の地域開発戦略および一帯一路構想への台湾企業の参加奨励、本土資本市場への台湾企業の上場支援、教育・文化・青少年交流といった分野での社会交流の拡大などが挙げられている。政策上のレトリックとしては、中国政府はこれらの施策を「両岸融合発展」という広範な戦略の一環と位置付け、台湾政策を中国の長期的な国家発展計画の中に制度として組み入れようとしている。
しかし、広く国際政治経済や地政学的変化という視点で見ると、第15次5カ年計画の台湾に関する規定に実質的な政策変更はほとんどない。むしろ大部分が、政治的影響力を及ぼす手段として経済統合と社会交流を推進するという長年の戦略の焼き直しにすぎない。サプライチェーン再編、地政学的競争の激化、そして中国経済内部の構造的課題の増大が浮き彫りとなった時代において、こうした政策手段の有効性はますます疑問視されるようになっている。
その意味で、第15次5カ年計画に組み込まれた台湾政策は戦略的な突破口とは言えず、既存の統一戦線というロジックを形式的に制度化したものに見える。中国政府は両岸関係を構築する主な手法として経済的インセンティブを重視し続けているが、台湾の戦略的環境はインド太平洋地域のパートナーである民主主義諸国との安全保障協力へと移行しつつある。これら2つの構造的方向性を巡って緊張が高まり、中国の台湾戦略に長期的な実現可能性という点で重大な疑問が生じている。
1.地経学的競争と世界秩序の変化
近年、米中間の戦略的競争は従来の軍事・外交領域を超え、世界の政治経済の領域にまで拡大している。米国政府とその同盟国は、輸出管理、関税、投資審査体制、産業補助金などの多様な措置を通じて、グローバルサプライチェーンの再構築と中国への技術的依存の低減を図っている。
この進化する地経学的環境では、「フレンドショアリング」や「デリスキング」といった概念が、サプライチェーンのレジリエンスを確保するための企業・政府戦略の中核となっている。米国、日本、欧州、その他のパートナー国による新たな技術協力ネットワークに、半導体、人工知能、重要な製造技術といった高度な産業が組み込まれる傾向が強まっている。
一方、エネルギー地政学によって中国の発展環境は不確実性が増している。イラン産原油輸出に対する米国の制裁やベネズエラなどのエネルギー産出地域における政治情勢の変化を受けて、世界のエネルギー市場はより不安定化している。世界最大のエネルギー輸入国である中国は依然として中東地域などからの輸入に大きく依存しており、これらの市場で混乱が生じれば、中国の産業コストやマクロ経済の安定に直接影響する。
このような背景から、中国政府はサプライチェーンの再構築、技術的デカップリング、地政学的分断が生み出す戦略的環境に直面している。こうした状況下では、台湾政策は単なる両岸関係の問題としてのみ理解すべきではなく、競争が激化する国際システムの中で経済的競争力と地政学的影響力を維持しようとする中国の広範な取り組みの一環として見る必要がある。
第15次5カ年計画の台湾に関する規定は象徴的なものだと言える。これは中国政府の長年の政治目標を再確認するものであり、世界の地経学的競争によって課せられた構造的制約を根本的に変えるわけではない。
2.中国の国内経済における構造的圧力
中国の国内経済の変化は、台湾に対する政策手段の有効性をさらに複雑にしている。過去20年にわたり、中国の急速な成長は主に不動産開発、インフラ投資、輸出主導の製造業に牽引されてきた。しかしこの成長モデルは次第に構造的な歪みを見せるようになった。
かつて景気拡大を支えた不動産セクターは、恒大集団や碧桂園といった大手不動産開発業者の債務危機を受けて長期的な低迷期に陥った。不動産投資の縮小は地方政府の歳入を減らすだけでなく、消費者心理や金融の安定も損なっている。
同時に、若年層の失業が重大な社会経済的課題として顕在化している。一時は中国の都市部若年失業率が20%を超え、当局はこの指標の公表を一時的に停止するに至った。若年失業率の高さは家計の期待所得を押し下げ、国内消費を抑制するため、経済を内需主導に転換する取り組みが困難になっている。
地方政府債務も財政負担の増大につながっている。地方当局は長年にわたり、大規模インフラ事業の資金調達を傘下の投資会社である融資平台に依存してきたが、こうした資金の多くは土地売却や不動産開発に支えられていた。不動産セクターの減速と財政収入の減少に伴い、このモデルの持続可能性にますます厳しい目が注がれている。
こうした状況に対し、北京は「双循環」や「新質生産力」といった新たな経済概念を推進し、技術革新と産業の高度化を推進している。しかしこれらの施策が具体的な成果を生むには時間を要する。この移行期において、台湾企業を含む外国投資家にとって中国の経済的魅力は不透明感が強まっている。
「新たな戦略も、中身は変わらず? 経済統合か安全保障協力か:第15次5カ年計画で示された中国の台湾政策を再考する(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
全人代の開会式(写真:新華社/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/7202
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