◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「黒船から白船へ:米台沿岸警備隊の写真とインド太平洋における海洋秩序の変容(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
※この論考は7月29日の< From Black Ships to White Hulls: Taiwan-US Coast Guard Imagery and the Transformation of Indo-Pacific Maritime Order>(※2)の翻訳です。
中国:管轄権を巡る争い
台湾に対する中国の圧力は、中国人民解放軍海軍だけでなく、政府や法執行当局を通じても行使される傾向が強まっている。中国は海警局の巡視船や海上監視船の派遣、そして国内法規を根拠に、台湾周辺海域は中国政府がすでに執行管轄権を有する地域だと広く主張している。
このアプローチの核心にあるのは、通常の法執行という表現だ。警戒活動、臨検、警告、乗船要求は、通常の管理業務のように見せることができる。こうした取り締まりを繰り返すことで、係争中の主張を徐々に実務上の慣行に変容させられる。中国政府は、中国船の存在感を高めるだけでなく、中国当局には台湾周辺の行動を規制する権限があるという前提を確立しようとしている。
台北とミジェットの写真は、その前提に異議を唱えるものだ。この写真は、台湾を独自の船舶、法的責任、国際的パートナーを持つ海上法執行主体として示している。台湾は中国海警局の管轄対象とは映らないし、単なる軍事的な火種とも映らない。捜索救助、密輸取り締まり、漁業法執行、航行安全には有能な当局間の協力が求められるが、この写真はその国際的な海洋ガバナンスの中に台湾を位置づけている。
したがって、中国政府の長期的な懸念は米国の巡視船1隻の存在にとどまらない。台湾は、米国、日本、フィリピンが重層的に作り上げている沿岸警備ネットワークと徐々に連携を深めていく可能性がある。船舶の識別、情報交換、事案の記録、公開文書化などでの協力関係が密になれば、中国のグレーゾーン作戦はより可視化され、一方的な定義づけは難しくなるだろう。物質的には中国が優位を保つものの、海上での事案の法的・政治的解釈を巡る対立は激しくなるだろう。
日本とホワイト・ハルの新たなネットワーク
日本は今回の写真をより広範な海洋構造を踏まえて読み解くべきだ。日本、米国、フィリピンは、沿岸警備隊の共同演習、海洋領域の認識、法執行訓練、能力構築を通じて協力を拡大してきた。重なり合うこれらの関係を連携させれば、米国沿岸警備隊、日本の海上保安庁、フィリピン沿岸警備隊、台湾海巡署を結ぶ新たな機能的ネットワークが見えてくる。
これら4つの機関を結びつける共通の枠組みや恒常的な調整メカニズムはまだない。台湾の外交的立場や「一つの中国」政策により、台湾が米国・日本・フィリピンの枠組みに正式参加することはできない。しかし海洋ネットワークは多くの場合、単一の制度や機関を中心に構築されるものではなく、二国間・三カ国間の取り決めが重なり合うことで発展していく。
捜索救助、災害対応、違法漁業の取り締まり、汚染防止、情報交換、専門的訓練が、連携可能な接点になる。個々の活動を通じて目の前の公共の目的を果たす一方で、継続的な協力によって通信、監視、運用面での連携の円滑化を進めるのだ。
日本にとって地理的に大きな意味を持つ点でも重要だ。日本のエネルギー・商業ルートは、台湾周辺海域、バシー海峡、南シナ海を通る。東シナ海、台湾海峡、南シナ海は外交上においては区別されるが、海運、海底インフラ、軍事の観点では地理的に結びついている。
台湾が実務面で参加すれば、日本の南西諸島、台湾の東側海域、バシー海峡、ルソン島北部の間に生じている重要な海洋情報の空白を埋めることができるだろう。日本政府はASEANに対し、台湾海峡を共通の安全保障宣言に組み込むよう求める必要はない。沿岸警備隊が実務面で連携すれば、東南アジア諸国の政府に陣営選択を迫ることなく、地域の状況把握能力を高めることができる。
とはいえ、日本はこうした協力が持つ民生的・公共財的な性格を維持しなければならない。沿岸警備隊のあらゆる取り組みを軍事的封じ込めの一環としてしまえば、地域は受け入れに慎重になるだろう。日本の優位は、専門的な法執行、インフラ、訓練、危機管理と、海洋能力とを結びつけられる点にある。
フィリピン:戦争未満での均衡確保
フィリピンの状況を見れば、インド太平洋の安全保障にとってなぜホワイト・ハルの協力が重要なのかが分かる。フィリピン政府はスカボロー礁やセカンド・トーマス礁周辺で、中国沿岸警備隊からの度重なる圧力に直面している。放水、進路妨害、接近操船といった行為は、通常の武力衝突とは見なされない水準にとどまっているとはいえ、フィリピンの負担となっている。
沿岸警備隊のあらゆる対立に海軍が対応すれば危険なエスカレーションにつながりかねないが、外交的抗議だけでは補給、漁業保護、物理的存在感を維持できない。そこで沿岸警備隊が連携すれば、直ちに軍事的対立や同盟条約上の義務を招くことなく、監視、記録、通信、訓練、後方支援を行うための中間的な手段として機能しうる。
米国沿岸警備隊の展開はすでにフィリピンの能力構築、捜索救助訓練、多国間演習への準備を支援している。こうした活動は、民生面ですぐに役立つだけでなく、より広範な戦略的影響もある。フィリピン政府は多くの接触を軍事衝突未満にとどめたまま、存在感と持久力を強化できるのだ。
台湾とフィリピンが直面している主権争いや外交的制約は同じものではないが、どちらも沿岸警備隊の活動や対外的主張を通じて自国の管轄権を常態化しようとしている中国政府の試みと対立するものだ。漁業管理、捜索救助、台風対応、密輸対策、環境保護は、正式な安全保障関係がなくても実務で交流できる分野だ。
フィリピン政府にとって米国在台湾協会の写真は、米国のホワイト・ハルによる関与が南シナ海での個別事案への対応にとどまらず、西太平洋全域での慣行になりつつあることを示すものでもある。ネットワークが広がれば、運用・政治面での圧力を分担できるかもしれない。それが持続するかどうかは、参加各国政府が実際の執行能力を強化しつつ、民生面での正当性を維持できるかどうかにかかっている。
保護対象から制度の一員へ
今回の写真は、地域における台湾の立場が保護の対象から海洋ガバナンスを運用する一員に変化したことを示している。
インド太平洋における競争は、軍事同盟にまで至らないレベルの制度を通じて行われることが増えている。中国は沿岸警備隊、公用船、行政規制、定期的な巡回によって管轄権を主張している。米国とそのパートナーは、訓練、協調航行、海洋領域の認識、違法漁業対策、捜索救助ネットワークを通じて、別の正当性を築いている。
この争いは船隊の規模の問題にとどまらない。重要なのは、どの当局が警告を発し、船舶に立ち入り、アクセスを維持し、事案を記録し、合法的な行動を定義し、その行動が正当なガバナンスであることを地域各国に納得させられるかという問題だ。
抑止や戦争という最終局面を規定しているのはグレー・ハルだが、一方でグレーゾーンの日常的な秩序をホワイト・ハルが形成する傾向が強まっている。
ASEANの共同声明で台湾が言及されなかったことは、地域外交の政治的限界を反映している。だがホワイト・ハル同士の関係なら別の形で関与できる。正式には政治参加できないとしても、運用上の協力は拡大できる。
この写真は、地域ガバナンスに貢献しうる海上法執行パートナーとしての台湾を公に知らしめるものだ。安全保障上の競争の最終局面を規定しているのは依然として海軍による抑止力だが、沿岸警備隊間の協力は、台湾が同盟に至らないレベルで制度に参画できる余地を広げている。
ペリーの黒船は集中的な威圧を通じて新たな秩序を宣言した。現代の白船のやり方はそれとは異なる。パートナーを結びつけ、協力を日常化し、演習や航海、海上での共同作業を1件ずつ積み重ねていくことで管轄権の正当性を構築するのだ。
米国の沿岸警備隊と台湾の海巡署の船が並走(写真:米国在台協会)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/7460
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