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安倍さんと黒田さんに教えたい「二つの貧困」の原因と対策=三橋貴明

支出の削減に走る政府が問題を深刻化させる~デフレ型貧困とは

逆に、人材が十分に存在し、交通インフラ投資等が進んだ先進国であっても陥る可能性がある貧困が、デフレ型貧困だ。デフレ型貧困に陥った国は、「生産」⇒「支出」⇒「所得」というGDP生成の三つの面全体が縮小し、国民がひたすら貧困化していく。

三つのGDPの面において、デフレ型貧困を牽引するのは「支出」の不足である。国民がモノやサービスに対する支出を減らすからこそ、生産が減り、結果的に所得が不十分になってしまう。

というよりも、GDP三面等価の原則により、支出を減らせば自動的に生産や所得も減ることになる。

支出が減ることで、「別の誰か」の所得が減ると、今度はその「別の誰か」が所得減少を理由に、次の支出を減らしてしまう。当然、さらに別の誰かの所得が減る。

支出を減らすとは、具体的には所得から貯蓄、借金返済に回すおカネを増やすという意味だ。

経済学的には借金返済も貯蓄に含まれるが、いずれにせよ、「国民が貯蓄を増やすと、その分、所得から消費や投資に回るおカネが減る」ことになる。所得とはモノやサービスに対する消費、投資からしか生まれない。

国民が所得から貯蓄に振り向けるおカネを増やす、経済学用語で言えば「貯蓄性向を高める」と、別の誰かの所得が縮小してしまう。経済がデフレーションに突入し、国民が貧困化するわけである。

デフレーションという経済現象の「問題の本質」は、物価の下落というよりは所得の縮小である。というよりも、物価下落は所得縮小の結果なのだ。

デフレ期には確かに物価が継続的に下落するのだが、それ以上のペースで所得が落ち、実質賃金が下落する。実質賃金の下落は、モノやサービスの生産の「量」が減っていることとイコールになる。つまりは、需要の不足である。

デフレの国では、農産物の生産は十分だ。国内の交通インフラも整備され、卸売業者も、運送業者も、小売業者も、国民の元に農産物を届けるための付加価値の鎖は確固として存在する。

ただ、消費者側が所得がなく、農産物を買えない。結果、インフレ型貧困と同様に、国民が飢える。

インフレ型貧困の解決のためには、国内の生産設備に対する投資、交通インフラに代表される社会基盤への投資、さらにはして人材投資等を「蓄積」するしかない。インフレ型貧困の解消には、ある程度の時間がかからざるを得ない。

それに対し、デフレ型貧困の国では、貧困問題の解決は簡単だ。国民が合理的に支出を減らし、誰かの所得を縮小させる悪循環に入っている以上、政府がモノやサービスの購入を増やせばいいのである。すなわち、政府の財政による需要創出だ。

ところが、不思議なことにデフレ型貧困に陥った国の政府は、国民に歩調を揃えるように「支出の削減」に走り、問題を深刻化させていく。国内で民間も政府もそろって支出を減らすのでは、所得縮小に歯止めがかからず、国民の貧困化も終わらない。

インフレ型だろうが、デフレ型だろうが、国民の貧困は経済の失敗である。同時に、国民を豊かにする「経世済民」を政府が実現できていないという話で、いずれにせよ政権担当者は失格という話になるのだ。

【関連】デフレの国・日本における「マイナス金利政策」の盲点=三橋貴明

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週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』(2016年2月27日号)より
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