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TPPという主権喪失~日本の国益を売り渡す「売国」のカラクリ=三橋貴明

ニュージーランドでTPP署名式が行われました。TPPについて「主権侵害である」という認識のもと、反対の論陣を張ってきた者として、斬鬼の念に堪えません。特に、「関税自主権」を取り戻すために、国家を上げ取り組み、二度の戦争を戦い抜いた我が国の先人に対し、恥ずかしく、情けない気持ちでいっぱいです。(三橋貴明)

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年2月4,5,6日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

TPPは「平成の売国」である。そう言わざるを得ない3つの理由

TPPのここが「売国」(1)~関税自主権の喪失

TPPは「関税自主権」のみならず、医療、金融、公共調達などのサービス分野に加え、「投資」の自由化までをも含む幅広い「主権喪失」になります。TPPの批准を防ぐ努力をすると同時に、このまま国会で批准されるとしても、各種の法律で歯止めをかける必要があります。

そのための材料は国会議員に直接、提供し続けていますが、本日のエントリーでは最も分かりやすい「関税」について取り上げます。

TPP暫定合意によると、関税の撤廃については以下の通り協定が締結されることになります。

いずれの締約国も、この協定に別段の定めがある場合を除くほか、原産品について、現行の関税を引き上げ、又は新たな関税を採用してはならない。
各締約国は、この協定に別段の定めがある場合を除くほか、原産品について、附属書二-D(関税に係る約束)の自国の表に従って、漸進的に関税を撤廃する。

まさに、関税自主権の喪失以外の何ものでもありません。

ちなみに、附属書二-Aは輸出入の「内国民待遇並びに輸入及び輸出の制限」なのですが、そこに日本の「措置」はありません。カナダやアメリカ、ベトナム、メキシコなどは、様々な「措置」で例外を残しているのですが、日本の場合は全面的に内国民待遇というわけです(内国民待遇とは外国の企業・投資家を自国の企業・投資家と同等「以上」に優遇することを言います)。

附属書二-D(ちなみに、980ページあります)には、農業関連の関税について細かい「表」があり、コメなどについては関税が維持されています。コメはアメリカとオーストラリア向けに無関税の輸入枠(7.8万トン)を設置し、現行関税は維持。牛肉は、38.5%の関税を段階的に9%にまで引き下げ、などになります。

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とはいえ、関税が維持された重要五品目についても、最終的には「例外なき関税撤廃」ということになりそうです。

交渉参加国による署名式を四日に控える環太平洋連携協定(TPP)をめぐり、国を相手に違憲訴訟中の弁護士らが協定案の英文を分析し、すべての農産品の関税が長期的に撤廃される恐れがあるとの結果をまとめた。

他の経済協定にある関税撤廃の除外規定が、聖域と位置付けたコメなどの「重要五項目」も含め、ないことを指摘。聖域確保に関する条文上の担保がなく、将来的に「関税撤廃に進んでいく」と懸念している。

分析したのは「TPP交渉差し止め・違憲訴訟の会」の幹事長を務める弁護士の山田正彦元農相、内田聖子・アジア太平洋資料センター事務局長、東山寛北海道大准教授ら十人余りのチーム。

協定案の本文では農産品の関税に関し、参加国に別段の定めがある場合を除き「自国の表に従って、漸進的に関税を撤廃する」(第二・四条の二項)と明記している。日豪の経済連携協定(EPA)など他の経済協定では、同様の条文で「撤廃または引き下げ」と表現する。TPPは規定上は引き下げの選択肢を除いている。

それでも関税が維持された日本のコメや牛肉などの重要五項目の扱いは、付属文書の記載が根拠になっている。

だが付属文書でも、TPPと日豪EPAなどの経済協定には違いがある。日豪EPAなどには「除外規定」が設けられ、コメは関税撤廃の対象外。TPPには除外規定はなく、逆に発効七年後に米、豪などの求めがあれば、日本のすべての関税に関し再協議する規定がある。<後略>

出典:全農産品で関税撤廃の恐れ TPP協定案を弁護士ら分析 – 東京新聞

東京新聞の記事にもある通り、日豪EPAが、「締約国は、別段の定めがある場合を除くほか、自国の表に従って関税を撤廃し、または引き下げる」と、「または引き下げる」という文言が入っているのに対し、TPPは、「締約国は、別段の定めがある場合を除くほか、漸進的に関税を撤廃する」となっています。

また、関税撤廃の除外規定は、日豪EPAにはあるのですが、TPPにはありませんでした。

しかも、再協議に対する考え方が、日豪EPAは、「合意を先送りした品目」が対象であるのに対し、TPPは七年後に、「一度合意したものを含め全般について再協議」と、なっています。

要するに、一度「関税を残す」と判断された農産・畜産品についても、七年後に再協議し、「関税を撤廃する」を目指すという話です。しかも、この「七年後の再協議」が義務付けられたのは、我が国だけなのです。

コメや牛肉などの関税は、「七年間の猶予」で残された、という話である可能性が濃厚です。何しろ、そもそもTPPは「例外なき関税撤廃」であり、条文でも「漸進的に関税を撤廃する」になっているわけでございます。ちなみに日本の農産物関税について「別段の定め」がないか、探してみたのですが、特にありませんでした。

安倍総理は、TPP暫定合意を受け、聖域五品目の関税維持など自民党の公約に関し、「約束はしっかり守ることができた」などと語っていましたが、現実には「関税撤廃時期の先延ばし」をしたに過ぎないのです。

結局、TPPにより日本は再び関税自主権を喪失し、同時に「関税撤廃」を強いられた。という話になるわけでございます。

Next: 売国(2)~TPPが発効したとしても、日本の対米輸出は増えない

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