ディーエムエス<9782>は、ダイレクトメール(DM)専業最大手であり、東京証券取引所スタンダード市場に上場している。事業はダイレクトメール、物流、セールスプロモーション(SP)、イベント、賃貸の5セグメントから構成され、2026年3月期の売上構成比はダイレクトメール事業が約8割を占める中核領域、物流事業が約1割、イベント・SP・賃貸が残りを担う構造となっている。同社が取扱うダイレクトメールは、通信販売カタログ、催事・セール・キャンペーンの案内、選挙投票整理券など公的機関からのお知らせ等、それぞれの暮らしに寄り添う情報、毎日の暮らしになくてはならない情報を取り扱っている。制作・印刷から、顧客情報処理、封入加工、発送まで、ダイレクトメール業務の上流から下流まで一貫して手掛けており、ダイレクトメール年間取扱数量は3.5億通を超える。ジャパネットメディアエージェンシーを筆頭に、カタログ通販・金融・通信・自治体・公的機関といったリピート性の高い大手顧客400社以上と長期取引を継続している。2026年3月期DM事業全体における売上顧客構成は、通信販売25.0%、印刷16.6%、デジタル9.9%、金融9.0%、広告代理店8.2%、団体(寄付など)3.5%、航空・ホテル・旅行レジャー等3.1%、自治体・公共機関2.8%、新聞・出版・メディア1.7%、小売・流通1.2%、不動産・住宅0.8%とかなり分散されている。
同社の強みは、第一に、上流から下流までを一貫して手掛けるワンストップ体制と取り扱い規模の大きさである。広告主側は中堅から大企業までと幅広いが、数百万通から一千万通規模のカタログを発送できるスケールを持つプレイヤーは限られており、大口顧客のニーズに応えられる体制が同社の競争優位となっている。同社は、大規模な顧客データベースを背景にデジタル技術や周辺サービスを組み合わせた高度な施策が打てる。第二に、ジャパネットメディアエージェンシーをはじめとする大手顧客との長期かつ深耕した取引関係である。テレビ通販やECで知られる顧客であっても、二度目・三度目の顧客接点はDMが有効となるケースが多く、紙媒体の需要は安定的に推移している。第三に、イベント・SP・物流といった周辺事業を組み合わせ、顧客の販促業務を総合的に受託できる事業ポートフォリオである。SP事業はBPO的な業務受託として上流の事務局機能から下流の物流連携までを担い、イベント事業も広告代理店との関係を背景に大型案件で安定的に指名される基盤を築いている。
業績面では、2026年3月期の連結業績について売上高303.08億円(前期比10.0%増)、営業利益14.99億円(同25.9%増)で着地した。売上高は初の300億円超え、営業利益・経常利益・当期純利益はいずれも2桁増となる力強い回復となった。主力のDM事業は、既存顧客の取引窓口拡大と新規案件受注により期中を通じて増収増益を維持。引続き、顧客企業のダイレクトメール活用意向は強く、また、ビックデータ保有企業のデータベース活用DMが活発化したほか、自治体施策の事務局代行サービスも業績向上に貢献したようだ。物流事業は機械化による利益率改善が寄与、セールスプロモーション事業も業務効率の改善により収益性が向上した。イベント事業も大型スポーツイベントや自治体施策の会場運営業務の新規案件受注が奏功して大幅な増収増益となった。結果的に、2026年3月期時点で、中期経営計画目標を1年前倒しで達成した。
2027年3月期の会社予想は売上高307億円(前期比1.3%増)、営業利益15.3億円(同2.0%増)を見込んでいる。前期の上方修正および通期決算の上振れ着地を拝見すると、一見保守的なガイダンスに見えなくもない。ただ、期初における営業進捗や引合い事象を中心にある程度見えている案件を積み上げる同社の慣行に沿ったものであり、足元の業況感そのものは前期からの基調を継続しているようだ。
市場環境を俯瞰すると、国内DM広告費は2008年以降縮小しており、2025年までに39%減少した。一方で、同社DM事業の売上高は2008年から2025年にかけて58%増加しており、市場が縮小するなかでも市場のマイナス成長に反して成長を続けている。これは、ビッグデータを保有する大手・中堅企業のDM利用意向は高く、縮小する市場の中でも同社のシェア拡大の機会が広がっていることが起因している。加えて、物流事業やイベント事業など、同社顧客サービスの充実余地も大きい。とはいえ、長期的なメディアシフトの趨勢は無視できず、デジタル領域との補完関係の構築が中長期成長の鍵を握る局面にある。同社自身、紙のオールドメディアと見られがちな自社のイメージに対し、近年はAIによるターゲティングで効果が高まっているDMの実態や、デジタル系周辺領域の取り込みを進める姿勢を強調している。
中期経営計画については、現行計画の最終年度である2027年3月期を控えるなか、次期中計の検討が進められている。すでに中計目標は達成しているが、現中計の3本柱である「次世代事業の創出(デジタルとリアルの総合情報ソリューション)」「第2・第3の事業の柱づくり(物流・SPの収益柱化)」「主力事業の深化」の進捗を踏まえ、デジタル領域との組み合わせやBPO領域の規模拡大、AIを活用したサービス領域の開拓には注目しておきたい。なかでも、物流事業は通販ECの拡大を背景とした出荷代行需要の取り込みが進み、SP事業は入札と業務提携先のギフトカタログ案件を軸に高採算性を維持しながら規模拡大を志向する構図にある。イベント事業も自治体施策や大型イベントなど比較的競争が穏やかな領域において、広告代理店との関係や顧客との長期信頼関係を背景に安定的な指名・受託基盤を築いている。財務面では現預金約69億円・有利子負債約1.75億円の実質無借金経営を維持しており、成長の基盤となる人・職場環境・IT・生産設備への投資を積極的に推進していく。M&A・資本業務提携についても、既存事業とシナジーを期待できる分野を探索しているようだ。
株主還元については、2025年3月の方針刷新により、新たに純資産配当率(DOE)を指標として導入し、2027年3月期までは8%を目安としている。加えて、自己株式取得を実施しており、2025年3月期の当期総還元性向は210%、2026年3月期は158%となる見通し。自己資本比率は78.3%と極めて高水準にあり、当期純利益を上回る還元の一方で、収益性を高めるための成長投資を一段進めていく構えである。直近の指標は、PBR1.0倍前後、PER16倍台、配当利回り7%近くで推移しており、東証スタンダードでも上位水準にあり、足元では個人株主数が大幅に増加するなど高還元姿勢を背景に投資家層の裾野が広がっている。
総じて、ディーエムエスはDM市場縮小という構造逆風下でも中計を1年前倒し達成する基礎体力を示し、堅固な財務を背景に株主還元と成長投資の両立を進めている。短期的には保守的なガイダンスに対する上振れ余地、中長期的にはデジタル領域との補完による収益拡大とROE改善の進展が論点となろう。市場からの見え方の改善余地を含め、今後の動向には再評価余地を含めて注目しておきたい。
いま読まれてます
記事提供: 
元記事を読む