CVCの提案に2つの問題点
ただし、このCVCからの提案に対しては、いろいろな問題点が取り沙汰されています。
<問題点その1:利益相反>
まず、利益相反の懸念です。
実は東芝の社長である車谷社長は2018年に就任する以前は、CVC日本法人の会長兼共同代表でした。また社外取締役の藤森義明氏もCVC日本法人の最高顧問を務めています(※編注:原稿執筆時点4月13日)。
株主からの圧力が強くなっている中で、彼らが関係の深いCVCに声を掛けて、非上場化を伴う買収提案に至ったという疑惑があります。
ファンドの利害と会社の利害は一致しないことが多く、仮に車谷社長や藤森取締役が話を進めやすいし、買収後自分たちがやりやすいから旧知のCVCに声を掛けたということであれば、東芝の取締役としては適切ではなく、利益相反の疑いが生じます。
今のTOB(公開買付)の仕組みですと、公開買付者が公開買付の届出をして開示した後に、会社側がそのTOBに賛同するのか、反対するのか等の意見表明を行います(会社として意見表明しないという表明もあります)。
その場合、東芝の取締役は100%東芝株主の利益に為に判断しなければいけませんが、これは出来るだけ安く買いたいという公開買付者の利益とは利益が相反します。
<問題点その2:買取価格>
次に、買収価格の問題です。
今回CVCは、TOB価格5,000円という提示をしてきているようです。これは現状の株価(4/12終値で4,530円 TOBのニュースが出た前日の4/6終値は3,830円)よりは高いのですが、アクティビストファンドが考えている東芝の価値よりはずっと低いと言われています。一部のアクティブストファンドが考えている東芝の適正株価は1万円を超えているという話もあります。
東芝の価値を論ずるのに、東芝が保有しているキオクシア(旧東芝メモリホールディングス)の価値をどう見るかという点が重要だと思います。
ちょうどCVCが買収提案しているというニュースが出る少し前(3/31のウォールストリート・ジャーナル)に、キオクシアに対してMicron Technology(マイクロン)とWestern Digital(WD)が買収提案をしているというニュースが流れました。
キオクシアは東芝が約40%を保有しています。
今回マイクロンとWDが買収を検討してきたバリュエーション(企業価値)は約300億ドル(約3兆3,000億円)と言われていますので、そのバリュエーションを元に算出した東芝が保有するキオクシア株の価値は1兆3,200億円になります。
保有しているキオクシアの価値も加味して見ると、CVCが東芝に対して買収している約2兆円という価格は安いように思われます。
4月13日付けのブルームバーグで、香港のヘッジファンド、オアシス・マネジメント(オアシス)が東芝取締役会宛てに、CVCの提案価格が安過ぎるとする書簡を送付したというニュースが出ていました。
オアシスは、1株当たり6,200円超が適正価格だと主張しているようです(これはポジショントークでもあると思いますので、本当に適正であるかは置いておいて)。
東芝の価値についてはいろいろな見方があるかと思いますが、客観的に見て、CVCのTOB価格である5,000円では、ディールが成立する可能性は低そうです。