各国政府・中銀が暗号資産の扱いに悩んでいる
その意味では、エルサルバドルは米ドルとビットコインという、安定の象徴と極めて不安定なものの代表格の、2つの法定通貨を持つことになる。どちらにも、シニョリッジはない。
そこで、BISの言う「興味深い実験」だが、ビットコインは投機的な資産であり、決済手段としての基準を満たしていないという見方には、全面的に賛同できる。
一方、バーゼル銀行監督委員会は暗号資産の規制案を公表、銀行がビットコインを保有する場合、損失が出た際に全額を埋め合わせるだけの資本を蓄えなければならないとした。
バーゼル委は、暗号資産を2グループに分けることを提案。1つ目は、トークン化された伝統的資産とステーブルコイン。これらは債券や融資、預り金、株式と同様に既存の規制が適用される。リスクウエートは0%から、高いものは1,250%もしくは資産価値の全額となる。
ステーブルコインや第1グループの暗号資産は、伝統的資産を裏付けとしている。米フェイスブックの「ディエム」はドルを裏付けとする。
第2のグループは、ビットコインなどの暗号通貨で、新たな「保守的で慎重な扱い」が必要となる。「特有のリスク」があるため、リスクウエートは1,250%とする。ビットコインは資産に裏付けられていないとした。
ビットコインは投資として適格か
先日、ビットコインは投資として適格かという質問を受けた。
短期間で半額近くになるようなものは、保有を前提とする投資には極めて不適格だ。しかし、この事実はショート(空売り)すれば短期間で大きな利益を上げられたことを意味している。こうした価格の急騰、急落の繰り返しは、トレーディングなどの投機的ツールとしては適格なのだ。
このことは、IMFが述べたように、経済面では多くの懸念があることも示している。
なお、通貨というものについては、私の新著『日本が幸せになれるシステム:グラフで学ぶ、年金・医療制度の守り方』(刊:Kindle Edition)の「第二章:つくられた貧富格差拡大 46. 通貨の価値」で詳しく解説している。
ビットコインに吹く順風
先週、ビットコインに大きな順風が吹いた。
エルサルバドルがビットコインを世界で初めて法定通貨とする決定をしたことに加え、最も保守的であるべき老後資金を運用する年金運用会社の1つが、ビットコインを投資物件として初めて認知した。
「米国の確定拠出年金401(k)を運営するフォーアスオール(ForUsAll Inc.)は6月初め、大手暗号通貨取引所コインベース(Coinbase Global Inc.)の機関投資家部門との契約を発表。同社が管理するプランに参加する労働者は、401(k)拠出金の最大5%をビットコイン、イーサリアム、ライトコインなどに投資できるようになった。
2012年設立のフォーアスオールが運用する資産は17億ドル、22兆ドルに上る401k市場では小規模との見出しが出ている。
※出典:Cryptocurrency Comes to Retirement Plans as Coinbase Teams Up With 401(k) Provider – WSJ(2021年6月10日配信)
また5月のビットコインの大暴落を受けて、米上場企業の中で最も多くのビットコインを所有しているマイクロストラテジーは第2四半期に少なくとも2億8,450万ドルの損失を計上する見通しとなった。しかし、ビリオネアのマイケル・セイラーCEOが率いる同社は、新たな資金調達によってビットコインへの投資をさらに拡大する意向を示した。
マイクロストラテジーは約9万2,000BTCを所有、その価値は一時50億ドルを超えていたが、現在は約34億ドル程度に下落している。同社は2028年満期の社債を発行することで、機関投資家から4億ドルを調達し、ビットコインの買い増しに用いると述べた。
マイクロストラテジーの株価は、2月の20年ぶりの高値から約55%下落、その下げ幅は4月の高値から約43%下落したビットコインを上回っている。
ちなみに、非上場の暗号資産運用会社のグレースケール・インベストメンツは、約65万BTCを所有、その価値は240億ドルを超えている。
※参考:ビットコインで巨額損失のマイクロ社、さらに4億ドル投資へ – Forbes JAPAN(2021年6月8日配信)
一方で、大きな逆風も吹いている。