fbpx

「ネットも繋がっていて、仕事も続けている」ウクライナからのメールで思い知る大国間“戦争ゲーム”の身勝手さと「明日は我が身」=矢口新

はしごを外されたウクライナ

ウクライナはNATO(ロシアを仮想敵国とする軍事同盟)の駒の1つとして扱われた。

ウクライナの親米政権はNATOに加盟すると宣言することで、事実上、ロシアの敵となることを表明した。

旧ソ連では、バルト三国が既にNATOに加盟していたが、ウクライナは基本的に文化や宗教が異なるバルト三国とは違う。日本で言えば、沖縄か、あるいは九州にも匹敵する。言葉や文化の違いも、お互いが方言で話すと通じないくらいの違いだ。

個人差はあるだろうが、ウクライナも、親ロ・親米と揺れ動くなかで、結局は武力で解決するしかなかったように、すべての人々がロシアが嫌でたまらなかったわけではない。

しかし、拡大を続ける西側諸国に対して、落ち目のロシアの盾となるのは、割りが合うとは思えなかったのではないか。

とはいえ、NATOに加盟すると表明することでロシアから攻撃を受けたウクライナへの、西側の支援は限定的だ。基本的には武器の供与と、難民の受け入れ、それに経済制裁だ。ウクライナが望む、上空の飛行禁止すらしてくれず、ロシアの砲火を浴びるままにされている。

NATOとすれば、まだ加盟国ではないので、「守る義務」はないとする。

また、ウクライナは欧州連合への即時の加盟も申請したが、欧州連合はそれには手続きが何年もかかるとした。

2014年以降のウクライナは米国やNATO、欧州連合がかけたはしごにのぼり、ロシアに喧嘩を売ったが、はしごを外されたような状態だ。そして、西側諸国から武器を与えられ、NATOの最前線で、少なくともこれまでのところ援軍もなく戦うことを余儀なくされている。

これが大国間の戦争ゲームの現実なのだ。

プーチンの行動は正当化できるか?

世界は皆で集まってロシアを責め、政府、民間を問わずロシアを制裁している。また、ロシアやベラルーシのスポーツ選手や芸術家、一般人たちも世界的な「いじめ」にあっている。一方で、ロシア国内からも戦争反対の声が聞こえてくる。

しかし、世界は米国がウクライナをNATOに加盟させようとしていたことも知っている。

米国の立場は、我々が目にしているメディアの報道、イラクやアフガニスタンで行ってきた現実、アサンジやスノーデンが暴いてきた「国家機密」で、おおよそのところは分かる。

米国はロシアを世界の孤児とし、徹底的に叩くとしている。JPモルガンは、ロシア経済は制裁を受けて35%落ち込むとした。

では、ロシアは反撃などせずに、国境線まで迫る仮想敵国にひたすら耐えるべきだったのだろうか?

そこで、ロシアの立場を見ることで、どうして同朋のウクライナを攻撃することになったのかを考えてみる。

1つ目は、米国相手には勝てる見込みがないことだ。
2つ目は、世界相手の資源戦争にウクライナが必要だったことだ。
3つ目は、クリミア以来の懸念を一気に解決したかったからだ。
4つ目は、ウクライナが敵側に回ることの波及効果だ。

1つ目は、言うには及ばないだろう。経済力、軍事力、仲間の多さ、どこをとってもロシアは米国の敵ではない。それでも大国間の戦争ゲームにロシアが参加できているのは、核弾頭の数では勝っているからだ。

プーチン政権が「核」の使用をちらつかせるのは、それしかないからだ。

2つ目も、希少金属や穀物で、ロシアがウクライナを取り込むことの意味は大きい。例えば、半導体製造に不可欠なネオンは7割をウクライナに、自動車の主要部品に使うパラジウムの4割はロシアに依存している。西欧諸国への天然ガス供給でも、ウクライナ経由のパイプラインは依然として大きな存在だ。

3つ目は、国家安全保障の観点から、軍事的に海軍基地のあるクリミアを手放す選択肢がない以上、そして世界もウクライナもそれを認めない以上、ウクライナも一気に手に入れた方が先への禍根を残すことが少ない。

4つ目が、プーチン政権にとっての最大の脅威だと思われる。

ウクライナが敵方に回ると、次はベラルーシだ。

イラクやアフガニスタンの侵攻前には、サダム・フセインやタリバンの蛮行がさかんに喧伝された。私自身、バーミヤン遺跡の破壊には意味もなく憤った記憶があるが、米軍はメソポタミア文明の遺跡をもっと大掛かりに破壊した。

同じように、ウクライナの親米政権誕生の前には、前政権の腐敗がさかんに喧伝された。今は、ベラルーシだ。

私などは日本の政治家たちも十分に腐敗しているように思うが、親米である限り、世界的な問題とはされない。それはそうだ。欧米の政治家たちも負けず劣らず腐敗しているのだから。

では、ウクライナとベラルーシをNATOに加盟させれば、米国のロシア包囲網は終わりなのか?私にはそうは思えない。次はロシア連邦だ。

「ロシア連邦には22の共和国がある。国内にはロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人の他に、トルコ系のウズベク人、シベリアや極東の少数民族なども存在し、合計で100以上の民族がある。公用語はロシア語だが、少数民族の言語も存在する。宗教はキリスト教徒が人口の60%を占め、その大半がロシア正教会の信者である。イスラム教徒も人口の8%ほどおり、仏教徒も存在する」。(ウィキペディアより)

先ほど、ロシアにとってウクライナの重要性、身近さは日本の沖縄や九州にも匹敵すると例えたが、ロシアの状況と比べるならば、西日本と東日本でもいい。ロシアとウクライナは、ロシアと他のどの連邦構成諸国よりも国境を除くほぼすべての面で近いのだ。

これらの共和国の首長たちが次々と「腐敗」し、クーデターが起き、独立し、続々とNATOに加わればどうなるか? その多くは資源大国でもある。

では、ロシア共和国だけになれば終わるのか?過去、数十年間の世界情勢を見ると、そうはならない可能性を示唆している。

イランがそうであるように、ロシアは核放棄を迫られる可能性がある。ベネズエラのように体制の変革を迫られる可能性がある。それまではずっと経済制裁が続く。そして、核を放棄すれば、イラクやアフガニスタンのようになる可能性すらあるのだ。

ウクライナは、そうなる前のぎりぎりの歯止めとしてロシアに「いけにえ」にされた。人権や国家主権などは考慮されない。大国間の戦争ゲームなのだ。

国家の安全保障を預かる立場で、現状の世界情勢から想定される危機を未然に防ぐという意味では、プーチンの行動は正当化できる。

また、「身内同然のウクライナでさえこんな目に合わせるのだから、人種も宗教もまったく違う他の共和国が許されると思うな」、これが、プーチンがロシア連邦の同朋に送ったメッセージだ。

狂っているのはプーチンだけではない。私が見る大国間の戦争ゲームは、狂人たちのゲームなのだ。

Next: 日本も「3つの大国」による戦争ゲームの真っ只中にいる

1 2 3 4 5
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー