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“対岸の火事”で終わらぬ英国債急上昇。コロナ財政出動で日本人が払う大きな代償=田中徹郎

イギリスのトラス首相が大規模財政出動と大規模減税を発表してから、イギリス国債は急騰し、大きくポンドが売られました。この動きで世界中の金融市場が動揺しました。日本はこれを対岸火事と眺めていますが、いつ日本でもおかしくないことだと危機感をもっていたほうがいいです。(『一緒に歩もう!小富豪への道』田中徹郎)

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プロフィール:田中徹郎(たなか てつろう)
株式会社銀座なみきFP事務所代表、ファイナンシャルプランナー、認定テクニカルアナリスト。1961年神戸生まれ。神戸大学経営学部卒業後、三洋電機入社。本社財務部勤務を経て、1990年ソニー入社。主にマーケティング畑を歩む。2004年に同社退社後、ソニー生命を経て独立。

イギリスで何が起きているのか?

ことの起こりは大規模な財政出動でした。

イギリスのトラス新首相は、就任早々、大規模な財政出動を発表しました。

内容はエネルギー価格の値上がり対策として、半年間で600億ポンド(約9.3兆円)。

それとは別に、継続的に実施する大規模減税で、2026年時点で年あたり450億ポンド(約7兆円)。

なんでもイギリスとしては半世紀ぶりの大型減税だそうですが、それだけに市場の反応は逆方向に大きく出てしまいました。

まず大きく反応したのはイギリス国債で、同国10年債の利回りは3.5%から4.5%までの急騰です(債券価格は大幅に下落)。

同時にポンドも大きく売られ、対円でも1ポンド=162円から同154円ほどまで、一気に下げました。

イギリスの中央銀行イングランド銀行は、市場からの英国債購入を実施し、いったんは落ち付きを見せました。

でも再燃する不安とともにふたたび債券は売られ、足元で10年債利回りは再び4.5%近くまで上がってきましたし、ポンドも売られています。

このようなヤバい状況をうけイングランド銀行は、以下のような声明を発表しました。

「市場の機能不全と、さらなる価格下落を見越して強まる『(国債の)投げ売り』の力学は、英国の金融安定性に重大なリスクをもたらしている」

出典:英長期金利、上昇止まらず 30年債一時4.7%に-日本経済新聞(10/11付)ただし( )内は著者付記

ちょっと難解な文章ですが、まあ平ったく言えば以下のような感じです。

「英国債はたたき売られているが、市場はもっと英国債が売られると心配してさらに売っている、これが他の金融商品に波及し、金融市場全体(注)が大揺れになる危険性がある」

上では「金融市場全体」というあいまいな言葉が使われていますが、例を挙げるとLDIです、LDIは英国の年金がよく使う運用手法ひとつで、英国債を担保にレバレッジを掛けて運用する手法をとります。

イギリスではいくつかの年金基金はこのLDIを活用しており、もし英国債がさらに売られるなら(金利があがるなら)、年金基金は金融機関から「追加担保」の差し入れを求められ、その結果、年金側は保有する株や社債などの売却を迫られることになります。

これが「金融市場全体への波及」とう意味です。

イギリス金利上昇の影響は他にも出てきそうです。

日本でもそうですが、多くの英国庶民は一定期間の固定金利のあと、変動金利に移行する住宅ローンを組んでおり、金利の上昇によって総支払額は増えるようです。

日本人と同様、イギリス人もふだんは金利に対してさほど注意を払うことは無いと思いますが、今回の件で金利の急騰が自分たちの生活に、おおきな不安を与えると実感したのではないでしょうか。

イギリス金利急騰が市場にもたらした惨状

イギリスの金利急騰の影響はそれだけではありません。

同国の金利上昇は世界の金利に影響を与え、たとえばいったん落ち着きを取り戻していたアメリカの10年債利回りは、再び4%の大台に接近中です。

アメリカの金利高はドル円相場にも影響し、ドル・円は節目と見られていた1ドル=146円を突破しました。

新興国の通貨も売られ、特に財務内容の脆弱な新興国のいくつかは、財政破綻を起こすのではないかと懸念されています。

このようにイギリスの「大規模財政出動=財政の悪化懸念」は、同国の金融の世界だけにとどまらず、年金や住宅ローンを経由して、イギリス庶民の生活に不安を与え、さらにそこからアメリカ、日本、新興国と懸念が世界中に波及しつつあります。

このような負の連鎖に対し、イギリス政府やイングランド銀行はなんらかの手を打たざるを得ないと思いますが、それでめでたくお終いとはいきません。

Next: イギリス国債急騰は対岸の家事ではない。日本の財政破綻の可能性

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