fbpx

TikTokは中国政府のプロパガンダツール?米国で禁止法が成立した中で日本人が見落としている「本当の問題点」とは=牧野武文

トランプ政権時代から始まったTikTok禁止への動き

米国のTikTok禁止への動きは4年前のトランプ政権から始まっていました。公聴会で、TikTokに対して投げかけられた問題は3つにまとめることができます。

  • (1)米国人の個人情報データが中国政府に流れているのではないか。
  • (2)TikTokは中国政府の影響下にあり、米国に対するプロパガンダ活動が行われる可能性があるのではないか。
  • (3)TikTokで配信される有害情報により、子どもたちの安全が脅かされている。なぜTikTokは有害情報をモデレート(適正化)しないのか。

まず、(1)の個人情報が中国政府に流れているのではないか、という疑惑については、公聴会の中でも質問が集中をしましたが、問題としては解決済みと言ってもかまいません。TikTok側はプロジェクトテキサスと呼ばれる対策をすでに始め、これが2023年内にも完了する予定です。これがTikTok側の主張どおりに行われば問題は完全に解決をします。

これまでTikTokは、米国の利用者から収集したさまざまなデータを米国とシンガポールのサーバーに蓄積してきました。これをテキサス州にあるオラクル社のサーバーに統合をします。データの移管が完了した後、シンガポールに蓄積されたデータは削除をされます。データの管理は米国企業であるオラクル社も関わることになるのです。

それだけはありません。データだけでなく、アルゴリズム部分についても、オラクル社のエンジニアのレビューを受けます。つまり、データ、アルゴリズムに両方にオラクル社の監査を受けることになります。これにより、TikTokは、米国のデータを米国内にとどめ、なおかつアルゴリズムの透明性も確保しようとしています。

公聴会でこの問題に関する質問が多かったのは、プロジェクトテキサスが適正に進められているかどうかを確認することと、手柄を立てたい議員が、プロジェクトテキサス以前の状況と(おそらく意図的に)混同をして、追求をしたからです。

例えば、「米国のデータを中国バイトダンスの社員が閲覧可能だった」と報道がいくつもありますが、それが米国市民の個人情報であったかどうかははっきりしません。TikTokが保有する匿名化されたマーケティングデータや運用に関する実績データであれば、親会社であるバイトダンスの従業員が閲覧することに何の問題もありません。公聴会では、このような混同をした厳しい質問が多数ありましたが、チューCEOは明確に否定をしています(というのは私の感じ方ですので、気になる方は議事録を確認してみてください)。

中国共産党に支配されているSNSはTikTokだけ?

次に(2)と(3)のプロパガンダと有害情報の問題は不可分なところがあります。それは、中国政府が意図的に有害情報を削除せず、米国社会を混乱させようと企てているという見方があるからです。

しかし、公聴会でもたびたび問題になったように、米国側の体制にも問題があります。それは通信品位法第230条の問題です。これは、UGC(User Generated Contents)を配信するSNSのようなサービスに対して、プラットフォームは、1.第三者が発信する情報について責任を負わない、2.有害な情報に対する削除などの対応について責任を負わないという2つの免責事項を定めたものです。

この通信品違法が成立をしたのは1996年で、当時はXやFacebookのようなSNSはまだありませんでした。UGCの仲介プラットフォームは掲示板が中心だったのです。ちょうどITバブルの時代であり、掲示板の社会的影響も小さかったため、新しいIT産業を成長させるために制定されました。

これは過剰な保護でした。例えば、新聞テレビなどのマスメディアが、UGCである読者投稿、視聴者制作のビデオを配信し、その内容が誰かを傷つけたとしたら、プラットフォーマーである新聞社やテレビ局も責任を問われます。内容を制作したのは新聞社やテレビ局ではなくても、それを配信するかどうかを判断したのは新聞社やテレビ局だからです。

しかし、SNSでは投稿した内容が自動的に配信され、しかも大量です。すべてをチェックするには膨大な人手が必要になり現実的でないことから、通信品位法第230条という免責条項が生まれました。当時としては必要な法律でしたが、現代では有害な情報が大量に増え、しかもそれを検出する技術も進化をしています。この法律を改正して、プラットフォーマーに一定の責任を負わせるべきではないかという議論が進んでいます。

有害情報が配信されることが問題視されているのはTikTokだけではありません。X、Snapchat、Facebook、Discordなど他のSNSでも同じです。そのため、1月31日の公聴会は、5つのSNSのCEOに対して行われました。しかし、TikTokには他のSNSにはない特徴があります。ダン・クレンショー下院議員が公聴会でこう語っています。

「公平を期すために言うと、すべてのソーシャルメディア企業がそれ(注:有害情報を配信すること)を行うことができます。しかし、ここに違いがあります。中国共産党に支配されているのはTikTokだけなのです」。

米国人にとって共産主義は、異なる考え方というだけではなく、資本主義を破壊する敵に見えています。1950年代にはマッカーシズムと呼ばれる社会主義者、共産主義者の社会的な摘発運動が起こりました。共産主義的な考え方を持っているだけで職を追われる事態となり、喜劇王のチャーリー・チャップリンも審査対象になりました。文化人や知識人の中には、資本主義とは異なる社会主義や共産主義に興味を持ち研究をする人が多かったのです。

この運動は、現在はアメリカの黒歴史のひとつになっていますが、本質的な傾向は大きく変わっていません。米国の保守派にとって、中国共産党というのは反社会集団に見えているのです。ここを理解していないで、公聴会の議事録を読むと、その異常ぶりに驚くことになります。

これにより、公聴会では、TikTokが中国共産党の支配を受けていないかどうかについて、何度もしつこく質問されています。

Next: トランプ氏の煽りに対抗したTikTokユーザーたち

1 2 3 4
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー