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TikTokは中国政府のプロパガンダツール?米国で禁止法が成立した中で日本人が見落としている「本当の問題点」とは=牧野武文

トランプ氏の個人的な報復だった?米政府を提訴したTikTok

米国とTikTokの軋轢が起きたのは、2020年のドナルド・トランプ政権の時代です。同年8月6日、トランプ大統領は大統領令13942を発行し、TikTokとその親会社であるバイトダンスと米国企業、米国人の間のすべての取引を禁止するように商務長官に指示をしました。

大統領令は、議会を通さずに、大統領の権限で実行することができますが、当然反対する市民から訴訟を起こされることがあります。そのため、大統領令と言っても、トランプ大統領の好き放題にできるわけではなく、後の訴訟に耐えられるようにじゅうぶんな法的根拠が必要です。

トランプ大統領が根拠にしたのは、国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act、IEEPA)です。これは、安全保障、外交、経済に関する異例で重大な脅威に対し、非常事態を宣言し、米国企業と個人がその脅威と経済的な取引をすることを禁じ、経済制裁をすることを目的にしたものです。主にテロリストや反社会集団に適用されます。これをTikTokに対して適用するというかなり無茶なものでした。TikTokは米国での経済活動ができなくなりますから事実上運営ができません。唯一の生き残る道は、米国企業への売却です。米国企業は経済制裁の対象ではないので運営が続けられます。

TikTokは、この大統領令には問題があると、トランプ政権を訴えました。IEEPAで禁止ができるのは金銭を伴う取引であって、金銭が介在しない個人的な交流や情報の交換は制限できません。つまり、TikTokが企業として収益を得ることはできなくても、投稿主が動画を投稿したり、ユーザーが視聴することは問題がなく、TikTokを運営禁止にすることはできないという主張です。この主張は裁判所に認められ、9月には大統領令の執行を猶予する予備禁止令を獲得しました。

また、TIkTokのプロダクトマネージャーであった米国人のパトリック・ライアン氏はユニークな訴訟をトランプ政権に対して起しました。この大統領令が執行されると、TikTokは従業員に給料を支払うことができなくなります。なぜなら、米国の企業や個人との金銭を伴う取引が禁止をされるからです。これは憲法修正第5条(何人も適正な法的手続きなしに財産や生命、自由を奪われてはならない)に反すると主張しました。

また、トランプ大統領の大統領令は、国益を守るためのものではなく、単なる個人的な報復にすぎないとも主張しました。

煽りの天才トランプ氏に対抗したリベラル主義者たち

このトランプ大統領の個人的な報復=タルサの報復は中国でもかなり知られたエピソードです。2020年6月19日、2期目をねらう現職のトランプ大統領候補は、オクラホマ州タルサ市で大規模な支援者集会を計画していました。

トランプ氏は、敵対する人を苛立たせる煽りに関しては天才的な人です。2016年の大統領選では、ローリングストーンズの『ブラウンシュガー(Brown Sugar)』をテーマソングに使っていました。もちろん、権利関係はきちんと処理をしているので使用することには何の問題もありません。

しかし、歌詞の内容が問題でした。ブラウンシュガーとは女性黒人奴隷の比喩で、その女性を凌辱する内容の歌詞なのです。そんなひどい内容の曲をストーンズはなぜ歌えるのか。彼らは無名の頃から米国黒人のリズム&ブルースの世界に憧れ、有名になってからはR&Bのアーティストのレコーディングに手弁当で参加するなど大きな貢献をしてきました。歌詞は確かに耳を塞ぎたくなるようなひどい内容ですが、ストーンズは黒人奴隷の悲惨な歴史を伝えるために歌っています。それは米国の黒人ブルースマンたちも認めています。

しかし、アメリカファーストを唱え、外国人排斥を主張するトランプ大統領がこの曲をテーマにすると、曲の内容がまったく違って聞こえてきます。黒人のつらい歴史を伝えるというよりも、黒人に対する暴力を肯定しているかのように聞こえるのです。

ストーンズは、この曲の使用をやめてもらえるようにトランプ候補陣営に伝えましたが、無視をされました。法的にはきちんと処理をされているため、ストーンズにも自分たちの音楽が歪んだ使われ方をするのを止めることはできなかったのです。

タルサの集会もそのような煽りがたっぷりのものでした。なぜなら6月19日は奴隷解放記念日だからです。しかもタルサでは、1921年に黒人の大量虐殺事件が起きるという悲しい歴史があり、6月19日には大規模な追悼集会が開かれます。その日に、決して大きくない町であるタルサで、トランプは大規模集会を開き、トランプ支持者が100万人集結すると豪語しました。

当時盛り上がっていた「Black Lives Matter運動」に参加するグループと、トランプ支持者がタルサで鉢合わせをします。しかも、当時は新型コロナの感染が拡大をしていた時期ですが、トランプ支持者はマスクもしないことで有名でした。

「我々は新型コロナなんか恐れない。マスクを強制されたり、外出を制限されることは個人の自由の侵害だ」と主張する人々です。タルサ市長は、不測の事態が起こりかねないとして、市民に当日は疎開を呼びかける事態にまでなりました。

さすがにトランプ陣営も問題が大きくなりすぎたと感じたのか、トランプ候補の100万人集会は翌日の6月20日に延期になりました。入場チケットは、スマートフォンから1人1枚、無料で入手することができます。チケットも100万枚がダウンロードされ、会場となっていた「オクラホマ銀行センターアリーナ」は2万人しか収容できないため、急増で屋外に4万人収容の会場を設営したほどです。

しかし、6月20日に集会が始まってみると、来場者はたったの6,200人だったのです。トランプ候補は大恥をかくことになりました。この状況を生み出したのは、メアリー・ジョー・ラウップさんというあるTikTokユーザーでした。ラウップさんはトランプ候補の集会に反対をし、TikTokで「チケットを取得して会場にはいかない」行動を呼びかけました。トランプを観客ゼロのステージに立たせて赤恥をかかせてやりましょうと訴えたのです。

この呼びかけに、米国のK-POPファン=通称K-POPスタンと呼ばれる人たちが反応をしました。K-POPスタンたちは、ユーチューブのK-POPの動画をスクリプトなどで連続再生して、再生回数を水増しすることに慣れています。彼ら・彼女らはそのテクニックを駆使して、トランプ候補のサイトから集会チケットを大量に多重取得したようです。

これは、ネットでも語り草の面白い事件ですが、トランプ候補の視点で見ると、危うげな要素が見えてきます。トランプ候補の発言や行動はともかく、アメリカの国益を優先し、「Great America Again」をスローガンにしている保守主義者で、ご自身の主観では、自分ほどアメリカの国益を考えている人間はいないと思われているのだと思います。それが、中国生まれのSNSで、韓国音楽のファンや移民の権利を守ろうとするリベラル主義者たちが結託をして、偉大なアメリカ復活運動の妨害をしたのです。これは問題だと思ったのではないでしょうか。

しかも、トランプ大統領は、新型コロナウイルスのことを「チャイナ・バイラス」と呼び続け、中国政府に賠償金を支払わせると言い続けてきました。中国政府が裏にいて、選挙運動の妨害工作をしたのだとまで疑ったかもしれません。つまり、トランプ候補の視点では、敵対的外国勢力の政治介入なのです。この件に、中国政府が関わっていたとは思えませんが、関わろうと思えば関わることができる構造は確かに問題があります。

Next: TikTokの本当の問題点はプロパガンダではない?

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