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半導体ラピダスが導く日本の製造業復活。トヨタの「すり合わせ技術」を受け継ぎ世界を制する=勝又壽良

ラピダスは、最先端半導体において台湾のTSMCや韓国サムスンの後発である。世間は非情なもので、ラピダスの存在を歯牙にも掛けなかった。ラピダスは、創業に当たり先行2社とは違った道を選ぶし、それに自信があると再三、表明してきた。日本の一般紙は、こういう説明に耳を貸さず、財務省の情報発信にウエイトを置いてきた。

ラピダスは、これまで「トヨタ方式」を踏襲するとは一切言及していない。だが、その経営戦略を辿るとトヨタ方式であることがわかる。例えば、小池淳義ラピダス社長は従来の半導体企業が、受注・設計・製造の各部門が独立しており、相互関係が希薄であった欠点を繰返し指摘している。ラピダスは、この体制を打ち破って一体化すると強調してきた。これによって、顧客の意向がダイレクトに製造部門に伝わるのだ。この方式は、トヨタに見られる社内での「情報共有化」に該当する。半導体企業では、革新的な経営改革である。

ラピダスが、世界初の半導体製造工程における「前工程」と「後工程」を一体化する。しかも全自動化であると小池社長が発言している。このとき、小池氏は「素材メーカーの協力を得た」と明確に述べたのだ。ただ、その半導体素材メーカーの社名を挙げなかった。

その後、この素材メーカーが信越化学でないかと推測されるニュースが出てきた。このニュースでも、ラピダスに言及はしていない。ただ、ラピダスが「後工程」の自動化を進める上で信越化学の協力があったと見るべき有力根拠があるのだ。

それは、信越化学が「後工程」のうち、半導体チップを基板に接続する工程を簡略化できる独自の装置を開発したからだ。信越化学の新装置では、中間の工程が短縮でき、半導体製造コストの削減につながるとしている。信越化学は、半導体素材メーカーから半導体製造装置メーカーへ分野を拡大したことになる。

ラピダスの強みは何か

ラピダスと信越化学の経営戦略から、半導体産業がトヨタの生み出した「摺り合せ技術」によって動いていることが分かる。ラピダスは、トヨタ方式で全社の「情報共有化」を行い、それが、前工程と後工程の統合化という世界初の技術革新へつながっている。信越化学は素材メーカーであるが、日々の発注企業との接触の中から得た情報をヒントにして、後工程の簡略化という装置の開発に成功した。これも、「摺り合せ技術」の成果である。

ラピダスと信越化学の関係は、トヨタを例にすれば信越化学が部品メーカーに当る。ラピダスは信越化学との共同作業(摺り合せ技術)によって、前工程と後工程の統合化というかつてない成果を上げることができた。半導体の歩留まりは、素材によって大きく異なる。半導体製造装置は、素材との「親和性」が極めて強い特性を持っている。この親和性実現こそ、摺り合せ技術の成果である。

韓国は2019年、旧徴用工問題で日本と対立した。日本が、半導体主要3素材の対韓国向け輸出手続き強化をした結果、輸入が遅れて他国製品へ切り替えた。これが、サムスンの半導体歩留まりを大きく低下させた。こうして、TSMCとのシェア格差が、さらに開いたと指摘されている。

結局、日本の半導体素材が世界一の品質を保持していると再認識させたのだ。サムスンは現在、横浜に後工程の試験ラインを設けている。日本の素材メーカーとの協力関係を築く目的とされる。

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