迫る火消しが最重要へ
中国は、11月5~8日の日程で全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会を開催した。この日程は、5日の米国大統領選を意識して設定したとみられる。トランプ氏が当選すれば、「60%超の関税」が現実化するので、これに対応する経済政策を発表すると市場が期待した。発表された内容は、肩透かしであった。
確かに、市場が期待した10兆元(約210兆円)の国債を発行するが、地方政府の「融資平台」が抱える隠れ債務の借り換え(スワップ)に充当される。高利債務を低利に借り換えて、支払金利で約6,000億元(約12兆600億円)が節約できる計算だという。この金利軽減で浮いた分を、財政政策で活用するというもの。大型の経済刺激効果とは、ほど遠い結論になった。先ず、発表内容をみておきたい。
中国は、地方政府の債務上限を35兆5,200億元に引き上げ、今後3年間で6兆元の特別債を追加発行し隠れ債務をスワップできるようにすると報じた。当局はその後、地方政府が同じ目的でさらに5年間で総額4兆元の新たな特別地方債枠を利用できると明らかにした。
整理するとこうなる。これからの3年間で6兆元の特別債を追加発行する。その後さらに5年間で総額4兆元の新たな特別地方債枠を利用するというのだ。つまり、8年間で10兆元の債券を発行する長期計画である。これまでの「隠れ債務」が、公式の債務へ変わるだけであり、債務残高そのものが減るわけでない。中国は、引き続きこうした巨額債務も抱えるほかない。
23年末の隠れ債務残高は、14兆3,000億元である。28年末には、これが2兆3,000億元へ減るもののゼロにならないのだ。隠れ債務だけに、借入金利は割高になっている。中国の正式な10年物地方債の発行金利は2.1~2.3%程度とされる。地方政府の融資平台が発行する債券(期間10年超)は、24年の平均発行金利で約3%である。この金利差を借り換え債によって減らそうという狙いである。
10兆元国債の使い道
10兆元の大型国債発行の目的が、借り換えに充当する意味は中国経済の置かれている状況がいかに深刻であるかを示している。中国が、公的債務によって金融危機を引き起こしかねない最悪状況に追い込まれていることだ。
地方政府の歳入のうち、これまで土地売却益が2~3割も占めてきた。現在の不動産不況では、土地売却益を期待できない状況だ。これでは、隠れ債務返済が滞り、金融危機へ直結するリスクが高まる。
米国財務省は、こういう中国財政の切迫状況をみて、中国の金融危機が世界経済を巻き込むとして、再三にわたり米中合同会議を行ってきた経緯がある。経済失速よりも、経済運営の基盤である金融崩壊防止こそが現在、中国経済にとって最重要課題になっているのである。
中国は、経済基盤である金融機能さえ維持できれば、経済成長率が半減しようが破綻を免れるのだ。