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中国にトドメを刺すトランプ関税60%…経済成長率は半減か。米中関係は再び冷戦へ=勝又壽良

米国大統領選でのトランプ氏再選がもたらす影響は、米中関係の激化と中国経済への大きな打撃が避けられない状況を浮き彫りにしている。トランプ氏は、関税引き上げを通じて貿易不均衡の是正を目指すとし、特に中国に対しては60%超の高関税を課す構えだ。この強硬な経済政策により、中国は輸出依存体制にさらなるプレッシャーがかかり、国内経済の逼迫が進む可能性がある。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

トランプ再選でインフレ不可避

世界中で、「もしトラ」として恐れられていた事態が現実化した。米国大統領選で、トランプ氏の返り咲きが実現したからだ。トランプ氏は、自らを「タリフマン」(関税男)と称して、関税率引き上げを武器にして対外経済政策を行う型破りの政治家である。

この狙いは、トランプ氏の言うところの「不公正貿易」を糺すには、関税率引き上げて輸入を防ぎ、国内製造業を活発化させて雇用を守るという一連の筋書きに基づく。この主張が、今回の大統領選挙で圧倒的な支持を得た理由だ。特に、低所得層から歓迎された。

トランプ氏のこうした「勝因」からみて、関税率引き上げに踏み切る可能性が高い。中でも、中国に対しては60%超の引き上げを行うとしている。それ以外の国々は同盟国であっても10~20%に引き上げを断行するという徹底的な関税引き上げ政策に拘っている。

トランプ氏は、関税率引き上げによる損害が相手国のみで負担するという単純な考え方である。輸入品が必需品で米国内での生産が少量の場合、関税率引き上げの経済的負担は、全て米国内の消費者に転嫁される。ただ、米国内で代替生産が可能であれば、高関税によって輸入を防ぎ国内製品でカバーするメリットが期待できる。それでも、物価高は不可避である。

目前にきた中国「沈没」


米国が、中国へ60%超の関税をさらにかけることは、中国経済にとって容易ならざる事態を迎える。中国は極力、回避すべく外交交渉を進めたいところであろう。

習近平中国国家主席は11月7日、米大統領選で当選したトランプ前大統領へ祝電を送った。その中で、習氏は「安定して健全な中米関係は両国の共通利益だ」と述べている。習氏は、「歴史が示すように中米の協力はそれぞれに利益をもたらし、対立はそれぞれに傷を負わせる。双方が相互尊重、平和共存、ウィンウィンの協力という原則を守り、対話と意思疎通を強めるよう望む」とした。貿易戦争の「休戦申し入れ」であろう。

この型どおりのメッセージが、トランプ氏の胸にどう響いたかは不明である。習氏が、関税率60%超の引き上げという異常事態忌避は当然だ。現在の中国経済は、輸出に大きく依存しているからだ。中国の本音は、内需不振を輸出でカバーするという、甚だ身勝手な理屈を押し通している。

本来であれば、内需不振は輸出のみでカバーせず、内需拡大政策が行われなければならない。中国は、こうした「定石通り」の政策を発動せず、貿易相手国に失業などの負担を押しつけて、自国の経済回復と安定を図ろうとする「近隣窮乏化政策」を行っている。自分の庭をきれいにして、ゴミを隣家の庭に押しつけるという「はた迷惑」な政策を進めているのである。

中国の最大輸出国は金額で従来、米国であったが2023年は僅差で3位に落ちた。だが、依然として米国の対中輸出に占めるウエイトは高いのだ。

   2022年      2023年
1位 米国 16.2%    ASEAN 15.5%
2位 ASEAN 15.8%  EU 14.8%
3位 EU 15.6%    米国 14.8%
4位 香港 8.3%    香港 8.1%
5位 日本 4.8%    韓国 4.7%
出所:JETRO

23年は、ASEANが1位であるが、中国からの迂回輸出とみられる。中国企業がASEANへ部品素材などを輸出して、最終製品として米国へ輸出しているのであろう。米国は今後、こうした中国による迂回輸出へ目を光らせる。

中国の輸出は、24年10月に大きく増加し、2022年7月以来の高い伸びとなった。米大統領選でトランプ優勢が世論調査で伝えられていたこともあり、輸出業者の駆け込みが多かったことを示唆している。10月の輸出は、ドルベースで前年同月比12.7%も増加したが、エコノミストの事前予想は5%増であった。この予想を2倍以上も上回る伸びで、「駆け込み輸出」を窺わせている。9月実績は、わずか2.4%に止まっていたのだ。

トランプ氏は選挙戦で、中国へ6割超の関税を引き上げる以外に、すべての国からの輸入品に最大2割を課すとの公約に掲げた。ベトナム、マレーシア、韓国など米中両国との取引が多い国では特に打撃が大きく、日本やインドといった主要な対米輸出国にも影響が及ぶ可能性が出ている。

上記のデータによれば、中国のASEAN向け輸出が23年には1位である。これは、中国の迂回輸出も含まれると推測されるだけに、ベトナム、マレーシアなどへの関税引き上げが新たな負担になる。ベトナムは、トランプ政権からの批判を回避するために、米国製品をより多く購入する準備をする必要に迫られよう。

そのベトナムは、米国空母の寄港を許可するなど、近年、米国との防衛関係を改善しつつある。それだけに、米国の関税引き上げは対米感情で微妙な影響をもたらすとみられる。トランプ氏は、こういう面を一切無視しているのだ。

Next: 中国は成長軌道から完全に転落へ。米中関係はどう変わる?

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