低下した米製造業の比率
ビジネス界出身のトランプ氏は、先述のとおり首脳会談で日本へ過剰要求を出さず、拍子抜けするほどであった。これは、米国製造業が危機にあるという認識に基づくのであろう。トランプ氏が、米国の貿易赤字拡大に神経過敏になっている裏には、名目GDPに占める製造業の比率が低いという事実が裏付けている。下記はそれを示している。
<名目GDPに占める製造業ウエイト>
米国 日本
2023年 10.2% 20.0%
2020年 10.0% 20.0%
2015年 11.7% 20.5%
出所:国連統計
米国の製造業ウエイトは、ほぼ日本の半分にとどまっている。米国が現在、海外企業の米国進出に対して補助金を支給する背景はここにある。第二次世界大戦後、米国製造業が抜群の競争力を持っていた。この時代の「メード・イン・USA」が、1970年以降は「メード・イン・ジャパン」に取って代わられた。そして、2000年以降は「メード・イン・チャイナ」に置き換わる変遷の歴史だ。この裏で、米国製造業のウエイトが低下の一途であった。1990年の米国製造業は、名目GDPの17.5%もあった。
米国が、日本製造業の協力を得て製造再興へ動いている理由は、グローバル化経済の破綻と今後ブロック化経済へシフトするという動かしがたい事情が迫っている。1991年のソ連崩壊によって、第二次世界大戦後の冷戦が終了した。グローバル化経済による「平和の配当」を期待する時代へと転換したのだ。米国は、これを利用して中国市場へ殺到した。IBMがパソコン製造を中止して、中国企業へ生産権利を譲渡するなど、国内の生産機能を海外へ手放した。これが、米国製造業弱体化の大きな理由である。
米ブロック経済で致命傷
時代は変わって、再び米中対立の時代を迎えた。グローバル化経済の破綻である。冷戦時代のブロック化経済へ逆戻りだ。この問題は後で詳しく取り上げるが、米国は現在、製造業の中でも戦略的部門の再構築を迫られている。その指南役が、ほかならない日本企業が担う役割になった。
24年4月、米国バイデン大統領は岸田首相を国賓としてワシントンへ招待した。日米首脳会談では、「日米同盟が、将来の進歩と繁栄という共通のビジョンを促進するグローバルなパートナーシップへと進化する」として、日米経済協力の青写真を描いている。そこには、日米が協力して強化育成する産業名までが挙げられている。
この2国間で同意されたファクトシートでは、「公式晩餐会を含む公式訪問において確認又は再確認された政治的見解及び日米間の更なる協力活動の計画の概観を提示するものである」と仰々しい扱いになっている。この中で、次の業種がピックアップされているのだ。
1)日米両国は、AI、量子、半導体、クリーン・エネルギー等の重要・新興技術について、引き続き緊密に協力していくことを誓う。これらの技術における我々の協力及び投資の強化は、我々の経済及び技術の将来を確保するに当たり、両国のより良い結束及び繁栄のための機会を与える、としている。
2)第一三共は、オハイオ州ニューアルバニーの同社施設に、新しい製造施設、研究所及び倉庫を建設するために、3億5,000万ドルを投資する意図を有する。
3)日米企業は、NTTのアイオン(IOWN)グローバルフォーラムのようなパートナーシップを通じ、光半導体を通じて得られる幅広い可能性を模索している。
4)ペロブスカイト太陽電池技術の研究開発を進展させる意図を有する。
5)水素及びその派生物並びに地熱に関する協力 水素ハブ構築に関する日米企業間の協力の進展を歓迎し、炭素集約度に基づく大規模かつ強じんなグローバル・サプライチェーンの構築及び水素の利活用拡大に向けた更なる協力への期待を共有した。
日米政府は、ここまで具体的に重要産業を指定しており、その成果は「共有」するという暗黙の協定がされている。米国の遅れた製造業再興に当たり、日本の支援を求めていることは明らかである。この点が重要である。トランプ氏が、日鉄・USスチール問題で日本の「期待」に答えざるをえない背景がある。