全自動5段階レベル
ここで、全自動運転車への規制レベルを明らかにしたい。運転システムの支援度合いによって5段階のレベルに分類される。
レベル1:ハンドル操作などを補助する
レベル2:システムが運転を部分的に支援する
レベル3:特定条件下でシステムが運転操作を行う
レベル4:特定条件下で完全にシステムが運転を行う(無人運転も可能)
レベル5:すべての状況でシステムが運転を行う(無人運転)
全自動運転車は、レベル5の段階を指す。現状はレベル2の段階だ。それだけに、レベル5へ達するまでには、多くの実証実験を重ねなければならない。自動運転車は、世界の中で日本が最も切実に必要としている「モビリティ」(移動手段)である。
日本では、すでにドライバー不足でモビリティ社会に大きな影を落としている。バス路線では、運行バス本数を減らす事態になっているほど。こうして、高齢化社会における公共移動手段の確保が困難になっている。それだけでない。物流業界の人手不足など、多くの難題解決に自動運転車の一日も早い実現が待たれる。
それには、着実な実証実験が不可欠である。人命の損傷は絶対に許されない領域だけに、レベル5実現はまだ先の話になる。そのためにも、現在の実験継続が不可欠である。
日本政府は3月26日、国家戦略技術として8分野を選定した。日本企業の海外展開を後押しする政策決定である。このなかに、モビリティが入っている。これは日本企業が、全自動運転技術の国際標準になると宣言したことだ。政府が、日本の全自動運転技術を世界最先端にあると認め、支援することを公表したのだ。この最先端技術こそ、トヨタが開発している「MTC=モビリティ・ティームメート・コンセプト」方式にそったものだ。
MTCは、次のような内容だ。ドライバーは、運転を楽しむ自由を持ちながらも、必要な時には自動運転技術によるサポートを受けられるよう設計されている。例えば、高速道路では「ショーファーモード」を選択して自動運転を行い、都市部では「ガーディアンモード」による安全運転支援を受けることが可能だ。こういう柔軟さが、レベル5の全自動運転車に必要な条件になろう。
テスラを上回る評価
トヨタの自動運転技術開発は、次のような目標の実現を掲げている。単刀直入な「レベル5を目指せ」というものでなく、段階を追った開発目標を立てている。いわば、「急がば回れ」方式である。具体的には、次のようなものだ。
1)交通事故死傷者ゼロを目指す安全性の向上
2)効率的な交通の実現
3)環境負荷の軽減を目的
4)2020年代前半 高速道路での自動運転を可能にする
5)2020年代中盤以降 一般道での自動運転を目指す
SNS上の投稿によれば、トヨタ・レクサスが高速道路上でレベル2の「ほぼ自動運転」という声まで上がっている。例えば、レクサスRXで体験したとして、高速道路での長距離移動に体力的負担がないとしている。渋滞時支援も強力なので、渋滞が予想される週末でも心配なく出掛けられるというのだ。中には、「テスラを上回る」とまで高い評価が出ているほど。こういう生の声について、トヨタは決して宣伝に使うことがない。テスラの宣伝上手とは天と地ほどの違いだ。
上記のように高速道路上の自動運転が条件付きで実現した以上、次は一般道での条件付き自動運転を目指すことになろう。ここで十分な実証実験を積まなければならない。レベル2までの積み重ねたデータが、レベル3へ引き上げる上で重要なステップになる。
レベル3は、「特定条件下でシステムが運転操作を行う」もので、システムが運転を操作することになる。レベル2までは、ドライバーが主体でシステムは従の立場だ。これが、レベル3では逆転する。「レベル3」「レベル4」「レベル5」の段階では、人命損傷事故の責任がすべてシステムを提供した企業側に転嫁される。
こうなると、自動車メーカーは、慎重の上にも慎重を期すほかない。単なる功名心で、「全自動運転」などと気軽に宣伝できなくなる。テスラは、米当局から「全自動運転」なる言葉の使用を禁じられている。
トヨタは、「レベル3」以降の高いレベル実現に向けて技術開発の手を打った。生成AIが自動運転のクオリティーを大きく変えるという認識に立ったことだ。そこで、多くのパートナー企業との連携重視戦略に転換している。その一つが、NTTとの提携である。
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