fbpx

トランプ関税“54%”で中国産業が虫の息。SHEINも崩壊、農民工に「大量失業」迫る=勝又壽良

今回の相互関税では、アジア各国が高率関税を課されている。

カンボジア49%、ベトナム46%、スリランカ44%、バングラデシュ37%、タイ36%、インドネシア32%など、軒並み高くなっている。これは、中国企業が前記諸国へ生産基地を移して対米輸出を積極的に行っていることを封じるためだ。

米国は、隣国のカナダとメキシコへも25%の関税をかけた。狙いは、中国の対米輸出機能を叩く目的である。これと同様な狙いによって、アジア各国で中国企業の対米輸出を抑制させるのであろう。

中国企業は、対米輸出を維持すべく世界各国へ工場を移転させている。今回の相互関税は、これを根元から絶つという強硬策である。中国から、前記諸国への部品や部材の輸出が、相互関税によって大幅にダウンすることは間違いない。

もっと重大な国内問題は、中国に残っていた「ローエンド」(低機能・低価格)商品が、ほぼ輸出先を失うことである。トランプ米政権は4月2日、申告額が800ドル(約12万円)未満の輸入貨物関税を免除するいわゆる「デミニミス」ルールについて、中国・香港への適用を5月2日に終了すると発表した。中国の格安通販サイトのTemu(テム)やSHEIN(シーイン)などにとって、大きな打撃となる可能性が出てきた。

TemuやSHEINなど新興の通販会社が、米国で急成長を遂げた背景には、この「デミニミス」の抜け穴の利用だ。米税関・国境警備局(CBP)によると、米国への「デミニミス」小包の数は2024年度に14億個と、22年度の約2倍にも増えた。

中国は、規則の抜け穴探しで「天才的能力」を発揮する。3000年以上の専制社会で、庶民がみつけたのは、「上に政策あれば下に対策あり」で、抜け穴を探し出して生きる道を探すことだ。WTO(世界貿易機関)加盟後、中国は抜け穴を探して、政府補助金を生産段階で与えることになった。こうなると、ダンピング規程に抵触しないのだ。米国の「デミニミス」規制も100%利用して、割安商品の通販に利用した。これが、中国のローエンド産業を生き残らせてきた理由である。

業者の作業場は土間

SHEINが本部を置くのは、中国南部の広東省広州市の番禺区だ。高層ビルが立ち並ぶ中、古ぼけた小さな建物がぎっしりとひしめく「城中村(都市の中の村)」と呼ばれる地区が点在する。その1つが「SHEIN村」として知られる南村鎮だ。入り組んだ道に並ぶ建物の1階はどこも開け放たれ、ホコリっぽい土間に古びたミシンが並ぶ。同地区に集まる無数の業者の多くがシーインの仕事を請け負っている。『日本経済新聞 電子版』(3月26日付)は、SHEINの作業現場をこうルポする。

お世辞にも、「明るい作業環境」とは言えない場所で、無数の零細業者がSHEIN製品を作っている。SHEINのビジネスモデルは、多品種を少量生産しながら需要に迅速に対応する「オンデマンド製造」だ。業者への初回発注のロットは100個程度。顧客の反応をみながら人工知能(AI)で需要を予測し、少量ずつ追加生産を重ねるシステムだ。

SHEINビジネスは、広州で中小・零細業者を含む1000を超えるサプライヤーをネットワーク化することで実現した。出稼ぎ労働者たちが、20〜30年かけて築き上げてきた生業的生産システムは、低コストであるからこそ生きながらえたものだ。それが、低価格を実現させた。さらに、米国の「デミニミス」制度による無関税が支え棒になった。

今後は、「デミニミス」が中国と香港に適用されなくなる。販路を失えば、SHEINビジネスは成り立たないのだ。この影で、出稼ぎ労働者たちは仕事を失う羽目になる。

Next: 消える労働集約産業…大量失業は不可避か

1 2 3 4
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー