中国では、地元の農村で農業以外に従事したり、都市に半年以上出稼ぎに出ている農村戸籍人口を一般的に「農民工」と呼ぶ。2023年の農民工は、2億9,973万人に達した。中国国家統計局の「2023年農民工観測調査報告」によるデータだ。
<23年農民工の業種別構成>
第一次産業 0.7%
第二次産業(建設業) 15.4%
第二次産業(製造業) 27.5%
第三次産業 53.8%
出所:中国国家統計局
農民工は、53.8%が第三次産業に従事している。第二次産業は、42.9%である。建設業と製造業は、いずれもこれから雇用が減少に向うと予測される。建設業は、不動産バブルの崩壊に直面しているからだ。製造業の27.5%(8,242万人)は、ローエンドであろう。熟練度が低く、付加価値も低い業種ばかりだ。
農民工の学歴をみると、最近は大学卒が入っていることが確認されている。就職難で農民工という非正規雇用で糊口を凌いでいるのだろう。23年では、15.8%の農民工が大卒以上の学歴である。10年前の7.3%から大幅に増加した。学歴の向上に伴い、より多くの農民工が第三次産業へとシフトしている。
前記のSHEINビジネス関連は、米国の「デミニミス」制度がこの5月から中国と香港に適用廃止となると事実上、廃業に追込まれる。この犠牲になるのが農民工であろう。彼らは、教育歴が低く、IT企業など「ハイエンド」(高機能・高価格)産業への転職が不可能な人たちばかりだ。雇用先を失えば、これら農民工は生きる術を失いかねない厳しい状況が待っている。どうなるのか、気懸かりな事態である。
消える労働集約産業
これまで典型例として、SHEINビジネスへ焦点を合わせてきたが、すでに労働集約型の製造業は雇用吸収力を失っている。周辺国に比べて高賃金であることが、工場移転をもたらし空洞化現象を引き起しているのだ。
中国の常州大学・塩城師範学院大学・河南大学の研究者によると、労働集約型の製造12業種は、2011~19年の間にほぼ400万人もの雇用が減少している。これは、平均で約14%の減少で、繊維産業では特に40%減になった。『フィナンシャル・タイムズ(FT)』の調査では、前記12業種の19~23年の雇用減はさらに340万人に達している。
前記のデータでは、2011年~23年の間に740万人が生産現場を離れている。機械化投資を行わなかった結果であろう。中国は、豊富な労働力によって経済成長を実現したが、それがすでに限界点に達しているのだ。このままでは、さらに何百万人もの年配の低技能労働者が、苦境に陥るおそれがあると指摘されている。時間の問題になってきた。
西側諸国は、中国からの労働集約型の低価格製品の輸出攻勢によって失った需要を、国内政策をテコに消費主導経済への転換で乗り越えた。当の中国は今や、労働集約産業の衰退に直面しながら、これら労働力の転換策について全くの無策である。
習近平氏は、ハイエンド産業の振興を強調している。「新質生産力」(新たな質の生産力)、すなわち先端製造業が、中国の成長モデルの中核を担うと明言している。だが、「ローエンド」分野に従事してきた労働力は、「ハイエンド」分野へ転換することが不可能である。もともと、高度の知識や技能がないからだ。