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「銀行株」トランプ関税で急落…今こそ買いか?下落要因と長期投資家が注視すべきリスク=栫井駿介

<景気後退リスク>

現在、米国は中国に対して相互関税を課しており、さらに上乗せ関税も検討されています。米国は中国からの輸入品が非常に多いため、関税が引き下げられない場合、米国で販売される商品の価格は大幅に上昇します。上乗せ関税ともなれば、一瞬で価格が倍になることもあり得る状況です。

そうなると、物価高騰により人々の財布の紐は固くなり、米国GDPの7割を占める個人消費が大きく落ち込む可能性があります。そのまま景気後退に陥るかもしれません。

さらに、インフレが加速することで、後述する金利の問題にも影響が出てきます。

景気に関するもう一つの懸念は、企業の設備投資です。トランプ氏は関税を引き上げることで、製造業を米国に取り戻そうとしています。しかし、本質的に米国に工場を作ることは、人件費や立地条件などを考えると必ずしも良い戦略とは言えません。また、工場の建設は長期的な目線で考える必要があり、現時点での関税の動向が不透明な中、企業は投資に二の足を踏む可能性があります。

企業が投資をストップすると、GDPの構成要素である企業投資(I)も減少します。個人消費(C)の減少と合わせて、GDPの減少、つまり景気後退を招く可能性が高まります。

景気が後退すると、銀行にとっては基本的にマイナスの影響しかありません。銀行が損失を計上する大きな要因の一つに、貸し倒れの増加があります。景気悪化により企業の業績が悪化し、倒産が増加することで、貸し出したお金が回収できなくなるリスクが高まるのです。

また、倒産の懸念が高まると、損益計算書(PL)上でも貸倒引当金を積み増す必要があり、利益を押し下げる要因となります。景気後退時には、銀行のPLと貸借対照表(BS)の両方に大きなダメージが生じる可能性があるのです。

過去には、リーマンショック時に多くの銀行が赤字に転落しました。これは貸し倒れの増加だけでなく、保有していた有価証券の価値が大きく下落したことも要因の一つです。

今回も同様の事態が起こらないとは限りません。銀行の財務状況や貸し出し先の健全性を見抜くことは、有価証券報告書を見ただけでは非常に難しいです。不良債権比率などの指標は開示されていますが、いざ倒産が発生すれば隠しようがありません。

実際に、三菱UFJの不良債権比率を見てみると、全体としては高い水準ではありませんが、米国の不良債権比率が2024年3月期に上昇しています。これは、米国で企業の倒産が増えていることを示唆しており、米国に進出している日本の銀行も損失を被る可能性があります。

<金利上昇リスク(アメリカ)>

一方、金利が上がれば銀行にとって良いのではないかという意見もありますが、景気が悪くなる局面ではそう単純ではありません。

特に日本の銀行の場合、景気が悪いのに金利を上げようとすれば、中小企業の資金繰りを悪化させる可能性があり、大きな反発を招くでしょう。したがって、日本においては景気後退局面での大幅な利上げは期待しにくいと考えられます。

次に、米国の金利について見てみましょう。

足元では、トランプ関税の影響で米国の金利が急上昇しています。これは、関税によるインフレ懸念から、FRB(連邦準備制度理事会)が利下げに転じることが難しくなっているためです。インフレを抑制するためには、通常、政策金利をインフレ率よりも高く維持する必要があります。

金利が下がらない、あるいは上昇する場合、銀行にとってどのようなリスクがあるでしょうか?

記憶に新しいところでは、シリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻があります。これは、金利上昇によって保有していた債券価格が下落したことが大きな要因です。多くの銀行は国債などを保有していますが、金利が上がると債券の時価評価額は下落します。

満期まで保有すれば損失は出ないのですが、SVBの場合、預金者がより高い金利を求めて資金を引き出したため、保有する債券を売却する必要に迫られました。その際、債券価格の下落により損失が拡大し、破綻してしまったのです。これは取り付け騒ぎの典型的な事例であり、金利上昇が再び同様の事態を引き起こす可能性も否定できません。

シリコンバレーバンクの破綻以降、金融システムは安定化していますが、それは金利が落ち着いているからです。もし今後さらに金利が上昇するようなことがあれば、再び危機に陥る銀行が出てくる可能性は十分にあります。

日本の銀行も、米国ドル建ての債券などを運用しており、米国の金利動向の影響を受けます。メガバンクだけでなく、地方銀行も同様です。最近では、日本最大の機関投資家である農林中央金庫も、米金利上昇による債券評価損で大きな損失を出しています。また、あおぞら銀行も、米金利上昇や米国のオフィス向け不動産融資の焦げ付きにより大きな損失を計上しており、同様の問題は他の銀行も抱えている可能性が高いです。

景気後退となれば、これらのリスクが表面化する可能性が高まります。

米国債10年 日足(SBI証券提供)

米国債10年 日足(SBI証券提供)

したがって、景気後退時に銀行株を積極的に保有するメリットはあまりないと言えるでしょう。

Next: まだ銀行株は割安なのか?今後の投資判断のポイント

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