トランプ政権の復活により、世界経済が新たなリスクに直面している。とりわけ、各国に対して高率の関税を課す「相互関税」政策が、米中の経済関係を一段と悪化させ、グローバルサプライチェーンの混乱、インフレの加速、米国債の信頼低下など、2008年のリーマンショックを想起させる連鎖的な危機の兆候が見え始めている。ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンも警鐘を鳴らす中、世界は果たして再び「世界恐慌」のような混乱に突入してしまうのだろうか?(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2025年4月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
これから世界恐慌のようなことは起こるのか?
トランプ政権が世界に課した相互関税を巡る動きが激しい。日本を始め各国はトランプ政権との個別交渉に乗り出しており、経済に甚大な影響を与えることになる高関税の税率の引き下げを目指している。4月16日にはイギリスとの合意が成立する可能性が報じられ、一律10%の関税率にする方向で動いている。相互関税の適用はすでに90日間の猶予が決定されているが、各国の交渉によっては一層低い税率が適用され、ちょっとした安堵感がこれから広がるにかもしれない。
しかし、状況はそんなに単純ではない。株価の不安定、市場の大きな変動、そしてさらに憂慮すべきことに、米国債の利回りが上昇しているにもかかわらずドル安が進行している。先週、投資家は米国債から急いで撤退し、10年債利回りは過去数十年で最も急上昇した。これは、トランプの貿易政策の転換により、一部の投資家が世界の主要市場としての米国の長年の役割に疑問を投げかけるきっかけとなった。
2024年末時点で外国人が8兆5,000億ドルの米国債を保有しており、これは公的債務総額の4分の1近くに相当する。米国債をリスク資産として見た資本が、米国から流出し始めているかのようだ。
ターゲットは中国。しかし、アメリカの影響の方が大きい…
しかし、やはりトランプの相互関税の影響がもっとも懸念されるのは、中国である。中国はすぐさま相互関税に報復し、いまではアメリカ145%、中国は125%という、それこそ両国の貿易が全面的に禁止されるくらいのレベルの関税を課している。
他の国々とは対照的に、中国はトランプ政権との交渉には応じていない。反対に、ボーイング社の製造した旅客機の中国への乗り入れを禁止したように、一層態度を硬化させている。このままの状況が続くと、中国とアメリカは本格的にディカップリングする方向に向かうだろう。もちろん、これがもたらす世界経済への影響はあまりにも大きい。中国は一歩も譲る気配を見せていない。
このように、中国が強気の姿勢である理由の1つは、高関税は中国よりも米経済に一層大きな影響を与える可能性が高いからだ。
まず、関税の影響は特にアメリカの消費者向けの家具、衣類、玩具、家電製品に与える。145%の関税の適用で、これらの製品の米国内の価格は急騰し、インフレ率を押し上げることは避けられない。これはアメリカの消費者、特にブルーカラー層の不満をかき立てる可能性がある。
これは、米国がサプライチェーンを通じて中国製品への依存を容易に解消できないからだ。米国による中国からの直接輸入は減少しているものの、現在第三国から輸入されている多くの製品は依然として中国製の部品や原材料に依存している。2022年までに、米国は532の主要製品分野で中国に依存するようになった。これは2000年のほぼ4倍に相当し、一方で中国の米国製品への依存は同時期に半減した。
さらに、軍事産業とハイテク産業にとって極めて重要なレアアースやレアメタルの世界的なサプライチェーンを中国が支配しており、一部の推計によると、米国のレアアースとレアメタルの輸入量の約72%を供給している。
中国は3月4日、米国の企業15社を輸出管理リストに加え、 4月9日にはさらに12社を追加した。その多くは、自社製品にレアアースやレアメタルを依存している米国の防衛関連請負業者やハイテク企業だった。
中国はまた、中国の需要に大きく依存し、共和党支持の州に集中している鶏肉や大豆など、米国の主要農産物輸出部門をターゲットにする能力を保持している。中国は米国の大豆輸出の約半分、米国の鶏肉輸出の約10%を占めている。3月4日、中国政府は米国の主要大豆輸出国3社の輸入承認を取り消した。
また、テクノロジー分野では、「アップル」や「テスラ」など多くの米国企業が依然として中国の製造業と深く結びついている。関税はこれらの企業の利益率を大幅に低下させる恐れがあり、中国政府はこれをトランプ政権に対する有利な材料として利用できると見ている。すでに中国政府は、中国で事業を展開する米国企業への規制圧力を通じて反撃する計画を立てていると報じられている。