中国にとっては逆にチャンスか?
一方、相互関税が中国にもたらす影響は限定的なものに止まると見られている。それというのも、中国の輸出主導型経済における米国市場の重要性が大幅に低下しているからだ。
2018年、トランプ政権が中国に対して高関税を適用し、第一次貿易戦争が始まった当時、米国向け輸出は中国の総輸出の19.8%を占めていた。ところが2023年には、この数字は12.8%に低下している。むしろ今回の関税導入は、中国が「内需拡大」戦略をさらに加速させ、消費者の購買力を引き出し、国内経済を強化するきっかけとなる可能性さえある。
むろん、中国は不動産市場の低迷、資本逃避、そして西側諸国との「デカップリング」により、中国経済は持続的な減速期に陥っている。しかし、この長期にわたる景気後退は、中国経済のショック耐性を高めた可能性があるようだ。企業や政策立案者は、トランプ大統領の関税の影響が出る前から、既存の厳しい経済状況を考慮に入れるようになった。
そして、トランプの対中関税政策は、北京に便利な外部のスケープゴートを与え、中国国内の世論を喚起し、経済減速の責任を米国の侵略に転嫁することを可能にするかもしれない。
ところで中国は、トランプ大統領の広範囲にわたる関税を二国間ベースで乗り切ることができると考えているが、同時に自国の貿易相手国に対する米国の猛攻撃が、米国の覇権を覆す世代的な戦略的機会を生み出したとも考えている。
この変化は、東アジアの地政学的構図を中国に有利に大きく変える可能性があるのだ。トランプ政権が初めて対中国関税を引き上げた後の3月30日には、中国、日本、韓国の3カ国が5年ぶりに経済対話を開催し、「三国間自由貿易協定(FTA)」の推進を約束した。
バイデン政権下で、米国が中国の地域的影響力に対抗する戦略の一環として、日本と韓国の同盟国育成に慎重に取り組んできたことを考えると、今回の動きは特に注目に値する。中国の観点からすれば、トランプ政権の行動はインド太平洋における米国の影響力を直接的に弱める機会となる。
同様に、バイデン政権下では主要な地域戦略的優先事項でもあった東南アジア諸国に対するトランプ大統領の大幅な関税の引き上げは、これらの国々を中国に近づける可能性が非常に高い。習近平国家主席は近隣諸国との「全面的な協力」を深めることを目指し、4月14日から18日までベトナム、マレーシア、カンボジアを国賓訪問している。
注目すべきは、東南アジアの3カ国すべてがトランプ政権による相互関税の対象となり、現在は一時停止されていることだ。カンボジア製品には49%、ベトナム輸出品には46%、マレーシア製品には24%の関税が課せられた。
中国から遠く離れた場所には、さらに有望な戦略的機会が存在する。トランプ大統領の関税戦略は、既に中国と欧州連合(EU)当局に、これまで緊張していた両国の貿易関係の強化を検討するよう促しており、これは中国との分離を目指してきた大西洋横断同盟を弱体化させる可能性がある。
4月8日、欧州委員会委員長は中国の首相と電話会談を行い、双方は共同で米国の保護貿易主義を非難し、自由で開かれた貿易を主張した。
偶然にも、中国が米国製品への関税を84%に引き上げた4月9日、EUも報復措置の第一弾として、200億ユーロ超の特定の米国輸入品に25%の関税を課すと発表したが、トランプ大統領の90日間の猶予を受けて実施を延期した。
現在、EUと中国の当局者は既存の貿易障壁について協議しており、7月に中国で本格的な首脳会談を行うことを検討している。
米中の交渉が決裂すると世界不況か?
このように見ると、トランプ政権の極端に高い相互関税の影響は、むしろアメリカのほうに大きな影響を及ぼす可能性が高い。中国もそのように見ているきらいがある。トランプ政権の関税政策が米ドルの国際的地位を弱める可能性を示唆していると見ているのだ。
複数の国に課された広範な関税は、米国経済に対する投資家の信頼を揺るがし、ドルの価値下落につながっている。伝統的に、ドルと米国債は安全資産とみなされてきたが、最近の市場の混乱により、その地位は疑問視されているのだ。同時に、高関税は米国経済の健全性と債務の持続可能性に対する懸念を高め、ドルと米国債の両方に対する信頼を損なっている。
もちろん、トランプ政権の関税措置は中国経済の一部に必然的に打撃を与えるだろうが、今回は中国がはるかに多くのカードを持っているように見える。米国の利益に重大な損害を与える手段を中国は有している。そしておそらくもっと重要なのは、トランプ政権の全面的な関税戦争が中国に稀有かつ前例のない戦略的機会をもたらしているということだ。
あまりに中国寄りの分析と思われるかもしれないが、客観的なデータを見ると、やはりこのように結論せざるを得ないように思う。トランプ政権と中国とのディールがまとまればよいが、全面的な対決になった場合、インフレの予想以上の昂進などから、米経済は深刻な不況に入る可能性が高い。







