1950年代の米国は、共産主義に脅威を感じて、共産主義者やその同調者に対する取り締まりに狂奔した。共和党員マッカーシーによって推進され、「赤狩り」があらゆる社会で猛威をふるった。1954年、米議会はマッカーシー非難決議を可決して、この騒ぎが収まった。この間、貴重な人命を失う犠牲者が出たのである。
マッカーシー旋風は5年で終ったが、中国脅威論は中国経済が明確に没落するまで続く気配である。中国経済は、不動産バブル崩壊という「歴史的経済事件」を引き起している。過去の世界経済史をみれば明白なように、このバブルに巻き込まれた国は、米国を除いてすべて国運衰退の契機になった。オランダ、英国、米国、日本、そして中国の5ヶ国だけが、世界史でバブル経済の刻印を背負わされている国である。
米国だけは、「イノベーション」をテコに復興に成功した唯一の国である。このバブルの歴史的経緯からみても、中国経済「再興」はあり得ないことだ。特に、市場機能を封印している無鉄砲さが災いとなり、人口急減速も手伝い経済衰退を早める運命である。習近平氏は、どうしてもこの事実を理解しようとせず、米国への対抗に意欲を燃やす「逆行動」を取っている。権威主義国家の悲劇だ。行き着くところまで行って目が覚める。こういう事態になろう。
地経学のエッセンス集約
米共和党の対中戦略は、トランプ政権の政策骨格をなしている。前述の共和党綱領を一言で要約すれば、「地経学」のエッセンスがはめ込められていることだ。地経学とは、お馴染みの「地政学」のリスクを減らす政策である。つまり、米国の抱える対中国リスクをいかに減らして、米国が優位に立つか。それを、地経学が示している。この視点で、前述の共和党綱領の経済政策や外交政策を読み直すと、トランプ政権が課した関税の目的がわかるであろう。
ここで簡単に、地経学の説明をしておきたい。世界経済は、貿易によって相互依存性を強めている。2021年から起こった中国の新型コロナは、世界の工場である中国を襲い、生産休止へ追い込まれた。これが、世界経済を大混乱に落とし入れた。半導体生産がストップしたことで、世界の自動車生産が落込むなど、大きな影響を被ったのである。
新型コロナは、意図的に引き起されたものでなく、偶発的な緊急事態である。だが、政治的意図で「供給制限」が始まると、一国経済は相互依存の輪が断ち切られる結果、大きな影響を被る。つまり、自由貿易による相互依存性の経済は、外交的意図に左右される本質的「脆弱性」を抱えている。ただ、国内で生産の代替手段を持っていればこの脆弱性は補える。地経学では、これを「敏感性」と呼ぶ。国内での代替産業の存在の有無だ。
敏感性=代替性とは、戦略技術の存在が焦点になる。AI(人工知能)、先端半導体、バッテリーなどが挙げられている。米国がバイデン政権以来、前記の生産工場を国内へ呼び込もうとした動機は、戦略産業を育成することにある。共和党綱領でも、それを明確に受け継いでいる。違う点は、バイデン政権が補助金をテコにした。トランプ政権は、関税引き上げという「荒技」で戦闘的である。他国を傷つけるもので、好ましいものではない。
トランプ政権は、26年11月の中間選挙までに関税政策によって、地経学的メリットを出そうと慌てている。共和党綱領では、ベースライン関税として、全世界からの輸入に一律関税を課すとしている。トランプ政権は、これに基づき10%がベースライン関税だ。綱領では、「トランプ互恵通商法」なるものを構想している。相互関税の設定である。
トランプ2.0は、地経学にそって矢継ぎ早に関税政策の発動をした。だが、余りの過激さで逆に国内不安をかき立てる事態に陥った。株式相場と国債相場の同時急落という滅多に起こらない結果に見舞われた。これは、トランプ関税の非合理性を意味している。
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