fbpx

習近平の「報復関税」に重い代償。トランプの罠で米国市場喪失、経済は長期停滞へ=勝又壽良

ここで、国債相場急落要因についてみておきたい。

過去の米国における株価暴落の際、新型コロナウイルス流行期を除けば、株価暴落でも債券価格は上昇した。だが今回は、株式と債券の同時安に見舞われた。これには、少なくとも3つの背景が指摘されている。内外の機関投資家が、急激な事態の変化に衝撃を受け、国債取引から一時的な投売りに出て手を引いたことだ。

  1. 投資家は、高関税に伴うインフレ加速に驚愕した
  2. 一部の投資ファンドが、追加証拠金を払うために国債を投げ売りした
  3. ヘッジファンドの巨額損害が、国債取引そのものから手を引かせた

上記3点のうち、(2)と(3)は、投資ファンドの経営問題である。重要なのは、(1)の関税に伴うインフレ加速である。これは、米国経済がスタグフレーションという形で長く尾を引く問題へと発展する。ただ、国債投売りという緊急事態が収まれば、再び「株価安の債券高」という過去にみられる通常パターンに戻るであろう。

強気の習氏には落し穴

米国経済は、地経学に基づく政策が拙速に行われて大混乱に陥っている。一方の中国も米国と同様に対応を間違えている。先述の通り、米国への125%関税で対抗したからだ。本来ならば、他国同様に米国と交渉すべきであった。

なぜ中国は強気姿勢に出ているのか。

最大の理由は、習近平氏の威信を内外に示すべく、あえて強気ポーズを取っていることだ。国内では、「強い指導者」像の確立。海外では、米国と対抗する「強い中国」というイメージの浸透である。

だが、この2つのイメージ戦略は完全に空回りしている。

国内では、高関税によって労働集約産業は「総討ち死に」である。格安「通販」で世界に名前を売った「シーイン」の地元である広東省の省都・広州市にある零細な縫製工場は、ここ2ヶ月で半分が倒産したと『日本経済新聞』(4月16日付)が報じている。1億5,000万人もいる製造業で働く農民工は仕事を失うのだ。習氏が、「強い指導者」像を演出するために、これだけ多くの貧しい人たちを路頭に迷わせるのだ。なんとも無慈悲な振る舞いである。

海外では、米国の高関税に対して中国と共闘する国は一国も存在しないことが明らかになった。米国によれば、75ヶ国と地域が米国との交渉を選び、中国のように報復関税で対抗する「無謀国家」はゼロである。EU(欧州連合)も、交渉を選んでいる。1930年のホーリー=スムート法に対抗した欧州諸国の報復関税が、世界恐慌へと拡大させた歴史を学んでいるからだ。関税による損害拡大を防ぐには、感情的反発を抑え報復でなく交渉が手堅い手段になる。

Next: なぜ中国以外の国は交渉の道を選んだ?日本市場へも影響大…

1 2 3 4
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー