<ツムラの圧倒的シェアを支える「参入障壁の高さ」>
なぜツムラは漢方市場でこれほどまでに独占的な地位を築いているのでしょうか?その背景には、漢方薬事業特有の高い参入障壁があります。
【原料の確保と品質管理の難しさ】
漢方の原料は、主に植物性由来の生薬です。これらの生薬の栽培から収穫、加工、輸送に至るまで、品質のばらつきをなくし、安定的に供給することが非常に難しいのです。ツムラの原価率が5割を超えるのも、この原材料費の高さに起因しています。
【エビデンス確立の困難さ】
漢方薬は、特定の症状だけでなく体全体の調子を整えるといった特性を持つため、「これを飲むとこういう効果がある」というエビデンス(科学的根拠)を立証する作業が非常に困難です。ツムラは古くからこの地道な作業を続け、現代医学の視点から漢方薬の効果を証明することに注力してきました。
苦難の歴史を乗り越え、現代医療に漢方を普及させたパイオニア
ツムラは、設立当初から生薬由来の漢方薬を扱い、西洋薬だけでなく東洋医学も処方薬として普及させるという強い信念のもと、長年にわたり活動を続けてきた歴史があります。

ツムラの歴史は平坦ではありませんでした。1990年代には、漢方薬に対するネガティブな情報(飲み合わせによる副作用など)が出回り、「自然由来で安全だと思っていた漢方が実は怪しいのではないか」という風潮が広まりました。これにより、漢方市場は一時的に売上が半分にまで縮小するという危機に直面しました。
さらに、1993年頃のバブル崩壊時には、当時の社長が海外事業や不動産事業など、本業以外の事業に手を広げていたことで関連会社が赤字に陥り、会社全体が非常に危険な状況にありました。
この危機を救ったのが、1995年に就任した新たな社長です。創業家ではない外部からの社長が就任し、コアコンピタンス(会社の最も強い強み)に全集中するという方針を打ち出しました。漢方薬の品質向上とエビデンス構築に徹底的に取り組み、漢方医学教育を全医学部・医学大学で実施されるようになるなど市場拡大に向けた活動を推進しました。
この粘り強い活動の結果、漢方薬の正しい知識が普及し、医師が処方し、患者が服用することでエビデンスが蓄積され、市場は再び拡大していきました。
漢方のメリットと国策による追い風
漢方薬は、現代の医療ニーズに合致し、国の政策からも追い風を受けている側面があります。
【「未病」へのアプローチ】
西洋薬が特定の病気に対して対処療法的なアプローチを得意とするのに対し、漢方薬は「体全体がだるい」「原因不明のめまい」といった「未病」(病気になる前の不調)や、体全体の調子を整えることを得意とします。
【副作用の少なさ・予防医療としての期待】
西洋薬の副作用を避けたい、あるいは悪くなる前に予防したいと考える患者が増えており、自然由来の漢方薬への支持が集まっています。