■ワコム<6727>の中期経営計画「Wacom Chapter 4」
1. 中期経営計画「Wacom Chapter 4」の方向性
新たにスタートした4ヶ年の中期経営計画「Wacom Chapter 4」では、引き続き「ライフロング・インク」のビジョンを継承するとともに、同社を『究極の「かく」体験を追求する道具屋』として定義した。これまで磨き上げてきた要素技術をさらに高め統合するとともに、新たな「かく」体験※を実現する技術革新と共創を通じて、さらなる企業価値向上を目指す。
※ 「描く」「書く」を極め、その先の「かく」を拓く(ひらく)という、広義の「かく」体験の実現に向けた想い(ミッション)が込められている。
その実現に向けて、1)コミュニティとともにユースケース領域の開発 → 2)新方式ペン技術の導入を含む同社の持つ要素技術の統合+資本提携を含むコミュニティとの技術体験の共創 → 3)ソリューションポートフォリオ(完成品・技術モジュール・プラットフォーム・インクサービス技術)への進化 → 4)事業セグメントの集約を想定した新組織構造(Inking Experience Support Groupを構成する3つのグループ)による体験価値の提供という、4つのプロセスによる価値提供の循環を推進する。
特に1)については、ポテンシャルが大きな「創る(Creation)」「学ぶ/教える(Learning/Teaching)」「働く/楽しむ、その先へ(Work/Play & Beyond)」「より人間らしく生きる(Well-being)」の4つのユースケース領域※に対して積極投資を行う。2)については、引き続き新コア技術(AI、セキュリティ、XR)をペン体験に統合するとともに、各パートナーとの共創により技術開発の商用化(実装)を進める。
※ 教育、日常業務のワークフロー、医療分野のDXなどが含まれる。
2. 数値目標
最終年度(2029年3月期)の数値目標として、売上高1,500億円(2025年3月期比343.2億円増)、営業利益150億円(同47.9億円増)を掲げた。また、資本効率性も重視し、同社試算の株主資本コストの推計値※をそれぞれ大きく上回るROE20%以上、ROIC18%以上を目指す。
※ 同社は株主資本コストについて、CAPM推計や市場の期待水準(株式益利回りの水準)を踏まえて8%~10%程度、資本コスト(WACC)は7%~9%程度と推計している。
売上高の増加分(343.2億円増)については、円高・米国関税影響などの外部要因によるマイナスの影響(115億円減)を事業成長(458億円増)でカバーするシナリオである。具体的には、「ブランド製品事業」における事業構造改革完了後の商品ポートフォリオ強化(113億円増)のほか、「テクノロジーソリューション事業」における既存事業の安定成長(195億円増)及び教育・医療・DX支援等の新規事業分野からの収益貢献(150億円増)が、トップラインの伸びをけん引する。営業利益の増加分(47.9億円増)も、外部要因によるマイナスの影響(30億円減)を事業構造改革効果(29億円増)及び事業成長(53億円増)でカバーするシナリオだ。その事業成長の内訳は、「ブランド製品事業」の商品ポートフォリオ強化(12億円増)のほか、「テクノロジーソリューション事業」の既存事業の伸び(27億円増)と新規事業の貢献(14億円増)となっている。
3. 資本政策及び成長投資の内訳
4年間の営業キャッシュ・フロー(R&D控除前)を累計940億円と見込む一方、その資金をR&Dと設備投資(合計620億円)やM&Aを含む技術資本提携(120億円以上)に投入するほか、株主還元(総還元性向50%以上)にもバランスよく配分していく。また、技術資本提携の進捗状況や株価水準を踏まえて、追加的な株主還元への活用も検討するとしている。
4. 弊社による戦略評価と注目点
市場拡大に伴うエントリー領域での競争が続くものの、デジタルペンやインクが持つ可能性は各方面で拡がりを見せており、同社は継続的に成長するための転換点にあると弊社では捉えている。したがって、各技術要素の統合やパートナーとの共創を通じて、ポテンシャルの大きな事業ドメインを切り開いていく戦略は、成長の蓋然性が高いと評価できる。革新的な価値創出となる分野ゆえ、本格的な事業化に向けた時間軸は現時点で不透明な部分が多いが、この中期経営計画期間中にどこまで具体的なソリューションを形にできるかが今後の焦点となる。
同社では、「創る」「学ぶ/教える」「働く/楽しむ、その先へ」「より人間らしく生きる」の4つのユースケース領域ごとに、各ステージ(市場展開、事業化、市場実装、開発)に分けて事業進捗ポジショニングを開示しており、事業の方向性が明確化された。今後それぞれがどのように進捗していくのか、さらなるパイプラインの積み上げをいかに図るかをフォローする必要がある。特に、すでに事業化ステージにある(株)ベネッセコーポレーションとの協業(進研ゼミ等)やモンブラン(MONTBLANC)とのデジタル文房具体験といったパートナーとの協業や義歯デザインDXなどの市場展開スピードをはじめ、開発(R&D)ステージにある認知症早期発見ソリューションの事業化への目途にも注目しており、それぞれが中期経営計画期間中に立ち上がってくれば、先行者優位性(技術やデータの蓄積を含む)を確保できる可能性がある。また、今後どのようなパートナーと組んでいくのかも同社に対する技術的評価やビジネスの具現性を判断するうえで重要な材料となるだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田 郁夫)
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