◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「敗北(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
※この論考は5月31日の< Defeat>(※2)の翻訳です。
勝者は中国か?
トランプは本気でイランから撤退したがっている。うんざりしているのは明らかで、話題を逸らしたがっているが、この問題から何の教訓も得ていない。トランプはこれまでの人生で、自らの過ちに責任を取る必要に迫られたことが一度もなく、どのような状況でも常に他者に責任転嫁してきた。イランでの悲劇的な戦略的敗北も例外ではなく、責任を取ることはないだろう。すでにキューバでの軍事作戦に向けて準備を始めているほか、つい先日もまたグリーンランドを挑発するような投稿をしている。軍事介入を縮小する姿勢は見られないが、活動範囲が西半球に限定されると思えば、わずかでも慰めになるかもしれない。米国がならず者の超大国という立場に収まる一方、中国は世界秩序の発展を支える安定した軸として魅力を増しているように見える。各国がトランプの次の行動に懸念を抱き、これまでの行動への対応に苦慮する中、中国は南シナ海のみならず西太平洋でも影響力を及ぼすべく軍備を増強し、国内の経済や産業のレジリエンスを高める時間を稼いでいる。
しかしトランプが引き起こしている混乱の中で、中国は本当に勝者だろうか。ある意味ではそうだろう。世界的な世論調査によると、中国は米国より信頼できる大国と見なされている。世界各国の指導者たちはここ半年の間に競って訪中し、米国の関税への対策として、新たな貿易協定を締結し関係を強化しようとしている。中国政府はいかなる問題においても主張を変えていない。香港、チベット、新疆のどこであろうと自国民への弾圧を続けている。今や内モンゴルを「北疆(Northern Frontier:北部の辺境地)」と呼び始め、モンゴルの言語や文化を軽視し、最終的には根絶しようとしている。国内産業への補助金を継続し、海外市場に製品を安値で輸出することで実質的に海外の製造業を空洞化させている。最先端技術や科学的ノウハウを今なお手段を選ばず積極的に獲得している。中でも、レアアースの輸出規制を通じて経済制裁を課し、政治的影響力の拡大を図っている。また習の最近の発言が裏付けているように、中国は軍事力を用いて台湾を支配する意図を放棄していない。こうした政策を続けながらもなお中国が魅力的に映る現状は、破滅的なトランプ政権下で米国の評判がいかに失墜したかを示している。
とはいえ、中国がロシアとイランの強固な後ろ盾になっていることを忘れてはならない。ロシアは、中国の経済支援がなければ、経済制裁や近代化されたウクライナの軍事力に耐えられなかっただろう。イランもここ数年、生産が制限されている原油のほとんどを中国に輸出してきた。イランによる海峡封鎖の影響を最も受けているのはアジア諸国だが、イランの最大の支援国は中国であるため、イランに対する不満や怒りは、実質的に中国に対する怒りの代弁とも言える。
中国は米国を弱体化させる手段としてロシアを支援してきたが、2026年に入ってから米国はウクライナに直接的な支援を行っておらず、その大部分を欧州諸国が肩代わりしている。つまり、中国はロシアの対欧州戦争を支援していることになる。欧州の指導者たちはまだこのことを十分に理解しておらず、プーチンのせいにしがちだ。プーチンがロシア帝国の崩壊に強い不満を抱いているのは確かだが、ここ数年は中国の支援を受けている。つい先ごろ、多くのロシア製ドローンがルーマニア領土内の建物に墜落したことで、プーチンの軽率さが露呈したばかりだ。ルーマニアはNATO加盟国であり、NATOとロシアの全面戦争への懸念は無視できない。中国はそうした紛争を助長する立場にいながら、EUの指導者たちに甘い言葉をささやき、これまで通りビジネスを続けるよう求める気なのだろうか?
米国の一連の政治的・軍事的敗北を招いているのはトランプであり、ある著名な歴史家はこれを「超大国の自滅(superpower suicide)」と呼んでいる。こうした状況を受け、世界は80年に及ぶ米国主導の秩序を捨て去り、歴史的に馴染みのある多極世界に戻ろうとしているが、必ずしも中国が勝利する運命にあるとは限らない。中国は数十年にわたり矛盾する主張をしてきた。平和を説きながら、ロシアやイランを支援している。南シナ海を軍事化しないと約束しておきながら、あっさりとこれを破った。国家の主権を主張しながら、中国の政策に異議を唱えたり疑問を呈したりする国に対しては露骨に経済的・政治的圧力をかけている。
中国との間で「経済だけの関係」などあり得ない。あらゆる関与は政治的なものだ。長期にわたって信頼できるパートナーとして米国をまったく信用できなくなった今、より混沌とした世界がもたらす現実の脅威に立ち向かうには、他のすべての中堅国が協力することが不可欠だ。中国が描く進路は解決には至らず、むしろ問題を生み出すからだ。
中国の習近平国家主席と米国のドナルド・トランプ大統領が、北京の天壇を訪問した際に祈年殿の前でポーズをとった(写真:ホワイトハウス)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/7344
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