■翻訳センター<2483>の事業概要
2. 翻訳事業
主力の翻訳事業は、同社本体並びに(株)メディア総合研究所、パナシア及び福山産業翻訳センターが行っている。分野特化戦略を推進しており、「特許」「医薬」「工業・ローカライゼーション」「金融・法務」の4分野に分けて専門化している。
a) 顧客業界とサービス内容
「特許分野」の顧客は特許事務所や企業の知的財産関連部署であり、主に特許出願用の明細書など特許関連文書の翻訳サービスを提供する。特許事務所においては、出願件数上位100事務所の約70%と取引実績がある。また企業(知的財産関連部署)では、電機、機械、化学、製薬やバイオといった業種の大手メーカーが中心である。
「医薬分野」の顧客は国内外の製薬会社・医療機器会社であり、医薬品・医療機器の研究開発から承認申請、マーケティングまで、あらゆるステージで発生する文書の翻訳サービスを提供する。グローバルのトップ製薬会社は外注する翻訳会社を絞る傾向にあり、プリファードベンダー(優先調達先)になれないと取り引きできない場合も増えている。同社では実績と知名度を背景に世界のトップ製薬会社の多く(世界売上高100億ドル超26社の96%)と取引実績があり、大手製薬会社をターゲットにプロジェクト型案件及び顧客常駐型サービスの拡大を推進している。
「工業・ローカライゼーション分野」は、自動車、電機、精密機械、エネルギーといった主要製造業から情報・通信、ITといった非製造業まで幅広い産業領域を対象とする。取扱文書は、仕様書、作業手順書、取扱説明書、教育資料、Webサイトなど様々であり、1つのドキュメントから複数の言語に翻訳することも多い。
「金融・法務分野」の顧客は国内外の銀行・証券・保険会社、法律事務所及び企業の管理系部署である。金融関連では目論見書や運用報告書、法務関連では各種契約書、企業管理部署関連では決算短信や有価証券報告書、株主総会招集通知、アニュアルレポートなどのIR関連の開示資料などが代表的な文書である。近年、企業の管理系部署との取り引きを拡大している。
b) 強み
同社の特長は「組織化・システム化された営業・制作機能」である。これにより要求の厳しい産業翻訳の顧客に対してバランスの良い価値(品質、スピード、コスト)を提供できるうえ、大規模プロジェクトや多言語案件にも機動的に対応できる。
営業機能に関しては、
1) 専門特化によるノウハウ蓄積
2) 信頼されるコミュニケーションと顧客社内他部門への展開
3) グループネットワークを生かしたサービスの提案
などが強みとなっている。
制作機能に関しては、
1) 2,945名の翻訳・通訳登録者(2026年3月末時点)
2) ICTによる登録者マッチングシステム
3) NMT、PE、翻訳支援ツール(CAT)、独自開発ツール・マクロの活用
4) 80言語以上に対応
5) 専門特化した子会社(メディカルライティング、海外への特許出願支援など)
などが強みとなっている。営業及び制作の両機能は相互に影響し合い好循環を生んでいる。
同社は、基本戦略として「NMTに本格的に取り組む事業モデルへの転換」を実行してきた。NMT化を図る戦略のターニングポイントとなったのは、2017年10月に行われた機械翻訳エンジン開発会社であるみらい翻訳への資本参加(持分比率8.99%)である。2016年11月にGoogleが翻訳ツールにNMTを採用したことで翻訳精度が格段に向上したことを背景に、企業が保有する翻訳データを効果的に学習できるNMTが必要不可欠であると判断したことが資本参加の目的だった。現在同社は機械翻訳エンジン「Mirai Translator」の代理店として外販活動も行っている。
NMT及びPEを翻訳工程に取り入れ、主要4分野で作業時間の短縮を図る取り組みを開始してから8年が経過した。成果は売上総利益率の向上という形で明らかとなっている。8年前の2018年3月期の売上総利益率は42.4%となったが、直近の2026年3月期は47.4%と5.0ポイント上昇している。価格競争において作業時間の改善効果は顧客への値引きに還元される。同社ではまだすべての案件でNMTを活用できているわけではないため、今後も継続して売上総利益率の向上が期待できる。
c) セグメント別業績推移
翻訳事業全体の業績は、右肩上がりで推移してきたが2020年3月期に踊り場となり、2021年3月期にコロナ禍の影響により落ち込んだ。その後は全体として業績が回復傾向にあるが、年によって一部不調な分野がある。2024年3月期は、医薬で一部顧客の売上減少の影響、2025年3月期、2026年3月期は工業・ローカライゼーションで非製造業からの受注減少があった。翻訳事業全体の2026年3月期の売上高は8,096百万円(前期比4.8%減)、営業利益は545百万円(同29.7%減)と減収減益となった。特許分野及び医薬分野で堅調に推移したものの、工業・ローカライゼーション分野及び金融・法務分野で、米国の通商政策に対する不透明感を背景とした、自動車関連企業などの受注減少、エネルギー関連企業などの前期大型案件の反動減などの影響が上回ったのが要因である。
3. 派遣事業
派遣事業は連結子会社アイ・エス・エスが行う事業であり、語学スキルの高い人材を顧客企業へ派遣する。昨今は金融関連企業やITサービス関連企業、医薬品関連企業からの求人が堅調に推移している。2026年3月期は、語学スキルの高い人材への底堅い需要により人材紹介手数料収入が増加したが、常用雇用者数が伸び悩んだ。売上高は1,123百万円(前期比4.4%減)、営業利益は36百万円(同20.3%増)と安定して推移する。
4. 通訳事業
通訳事業は連結子会社アイ・エス・エスが行う事業であり、IRカンファレンスや商品発表会、各種イベントなどでの通訳業務を請け負う。コロナ禍を契機に、顧客企業のオンライン会議に伴う通訳需要を積極的に取り込み、サービス形態の幅が広がった。2026年3月期は、既存顧客である医薬品関連企業、電機・電子部品メーカー、情報通信関連企業等からの継続受注に加え、複数のグローバル会議案件と大型スポット案件を獲得した。2026年3月期の売上高は1,323百万円(前期比11.5%増)、営業利益は113百万円(同27.0%増)となり、売上高・営業利益ともに過去最高を更新した。
5. その他事業
その他事業には、コンベンション事業や通訳者・翻訳者養成スクール「アイ・エス・エス・インスティテュート」を運営する語学教育、外国特許出願支援などが含まれる。前期までは「コンベンション事業」は独立した報告セグメントだったが、量的な重要性が低下したため、「その他事業」に統合された。同事業は、コロナ禍においてはイベントや国際会議・学会などの開催中止や延期の影響が大きく、その後も完全な回復には至らなかったため、体制を縮小している。この影響により、2026年3月期の売上高は328百万円(前期比3.6%減)、営業利益は10百万円(前期は10百万円の損失)となった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田 秀夫)
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