現在、日本の株式市場において、一見すると「地味」な電子部品メーカーであるデクセリアルズ<4980>が異例の注目を集めています。直近で株価が急騰している背景には、AIデータセンターの爆発的な建設需要、そして次世代の通信技術とされる「光電融合」というキーワードがあります。多くの投資家がこの波に乗ろうとしていますが、同社が具体的にどのような技術を持ち、なぜAI時代において不可欠な存在とされているのかを深く理解している人は意外に少ないかもしれません。今回は、デクセリアルズの事業構造から経営の先見性、そして投資家が心得ておくべきリスクを解説していきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
デクセリアルズとは
デクセリアルズを一言で表現するならば、「未来を見据えた、超地味・高収益企業」です。
派手な広告展開こそありませんが、その収益性と成長性は驚異的な水準にあります。
同社の収益構成は、大きく分けて「光学材料部材」と「電子材料部材」の二つのセグメントで成り立っています。
光学材料部材では、反射防止フィルム(ARF)や精密接着樹脂、光学弾性樹脂(SVR)などを扱っており、電子材料部材では、異方性導電膜(ACF)や光体接合関連材料、虹保護ヒューズなどを手がけています。
これらの製品名は非常に専門的で地味な印象を与えますが、実は私たちの身近にあるiPhoneをはじめとするスマートフォン、ノートPC、そして自動車のディスプレイといった、現代生活に欠かせないデバイスのクオリティを支えているのです。

デクセリアルズ<4980> 日足(SBI証券提供)
世界シェアを独占する「三種の神器」と高い価格決定力
デクセリアルズが投資家を惹きつける最大の要因は、特定のニッチ市場で圧倒的なシェアを握り、それによって高い利益率を維持している点にあります。
具体的には、異方性導電膜(ACF)で世界シェア74%、反射防止フィルム(ARF)で92%、光学弾性樹脂(SVR)で54.7%という、驚異的な占有率を誇っています。
これら3つの主要商品だけで全売上高の約63.8%を占めており、これほど高いシェアを持っているということは、顧客であるメーカー側からすれば「デクセリアルズから買わざるを得ない」という状況を意味します。
この圧倒的な立場が強力な価格決定力をもたらし、製造業としては異例の売上高利益率30%前後、ROE(自己資本利益率)にいたっては2021年以降、25%〜30%という非常に高い水準を維持し続けているのです。
AI時代を牽引する主役「フォトダイオード」
同社の既存事業であるスマートフォンやPC向けの部材も堅調ですが、今、株式市場が最も熱狂しているのが「光半導体」の分野です。
特に2026年度に向けて利益を大きく伸ばすと期待されているのが、「フォトダイオード」と呼ばれる部品です。
このフォトダイオードが活躍する場所は、まさに今、世界中で巨額の投資が進んでいる「AIデータセンター」の内部です。
データセンターのサーバー内にはAIの計算を司るGPUやCPUがありますが、そこで計算された膨大な電気信号のデータを世界中に運ぶためには、一度「光の信号」に変換する必要があります。
この変換を担うのが「光トランシーバー」という装置であり、デクセリアルズはその光トランシーバーの中に組み込まれる「フォトダイオード」を供給しているのです。
1.6テラ、3.2テラ時代の到来とデクセリアルズの役割
データセンターにおける情報のやり取りは、私たちの家庭用通信とは比較にならないほどの容量を扱います。
家庭用の光回線が1Gbpsや10Gbpsであるのに対し、最新のデータセンターでは400Gbps、800Gbps、さらには1.6Tbpsや3.2Tbpsといった、天文学的な速度での処理が求められています。
デクセリアルズは、この大容量情報の処理に対応できる高精度かつ極小のフォトダイオードを製造できる技術を持っています。
AIデータセンターの建設が加速する限り、この高性能なフォトダイオードの需要も右肩上がりで伸びていくことが期待されており、これが同社の新たな成長エンジンとなっているのです。
電力消費抑制の切り札としてのフォトダイオード
さらに長期的な展望として注目されているのが「光電融合(CPO)」です。
現在のコンピューターは電気で情報を運びますが、これを光で運ぶように変えることで、電力消費を大幅に削減し、さらなる高速化が可能になるとされています。
「電気で運ぶよりも光で運ぶ方が電力効率が良い」という特性を活かし、半導体そのものを光技術と融合させてしまおうというこの大きな流れにおいて、フォトダイオードは欠かせないピースとなります。
デクセリアルズが「光電融合銘柄」として名前を上げているのは、まさにこの未来のインフラ構築において、同社の技術が活躍する場面が劇的に増えるだろうという期待の表れなのです。
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