【トルコ】国民投票勝利でエルドアン大統領の独裁制へ
「EUは対トルコ関係の根本的見直しを」と題する記事を英紙『The Financial Times』が掲載しました。これは、16日に行われた国民投票の勝利により、トルコのエルドアン大統領はほぼ縛りのない行政権を握ることになったと指摘しています。これに対し、パートナーであるヨーロッパ諸国は控えめな反応を示しているものの、トルコの新憲法はEU加盟の基準とは相入れず、ヨーロッパ諸国にとってはジレンマが先鋭化することになるとしています。
今回の51対49という僅差でのエルドアン大統領の勝利は、いろいろな点で考えさせられるものです。1つは、大統領に全権限を三権まで与えてしまうことで、つまりトルコは議会制民主主義ではなくなり、大統領独裁制となるわけです。なぜ三権かと言うと、裁判所の司法長官を含め、大統領に任命権があるのです。したがって、これはオスマントルコに戻ったという表現をするイギリスのテレビもあるほどです。
「ここまでやらなければいけないのか」ということで、トルコの中は今回、完璧に二分化してしまいました。EUはこれにしらけてしまい、もうトルコのEU加盟はないだろうとしています。おそらくエルドアン大統領もそれは覚悟の上で、EUに加盟するなどという甘いことは考えず、トルコはトルコの道を行くという考えでしょう。
ただトルコはNATO(北大西洋条約機構)には入っているので、軍事同盟はやりながら、このようにヨーロッパから距離を取ることができるのかという点は疑問です。また、死刑復活ということになり、ヨーロッパから見ると許せない部分が多く出てきてしまいました。
アメリカも、Divided States of America と表現される状況になっていますが、トルコでも大統領独裁制に賛成をしたところは田舎が多く、アンカラやイスタンブールなどは改憲に反対しています。また、外国との関係が深いイズミールなども改憲反対です。地域別に見ると、アメリカでトランプを応援した地域があったのと同じようなことになっているわけです。
アメリカは「United States of Inland」と「United States of Coast」というふうに二分したわけですが、トルコの場合には「田舎」と「比較的産業の起こっている所」に分かれています。もちろんクルド人勢力の強いところは、東に多いのですが、田舎でも反対をしているところがあります。この地域では今のエルドアンの独裁など許せないと思っているのです。田舎は賛成していますが、その中でもクルド人地区の田舎は反対に回ったということなのです。
トルコはここから先は予断を許さず、エルドアン大統領が、どこまで以前の古き良きエルドアン(素晴らしいリーダーシップを発揮していた首相になって1年目の頃)に戻るのか、それともこのまま突っ走って行ってしまうのか、注意して見ておく必要があります。
エジプトとトルコは両方ともほぼ軍事独裁制の方に行ってしまったわけですが、これがいわゆる中東の盟主となっているのです。その他にはイラン、サウジのようにスンニ派とシーア派で戦うような国がありますが、中立的なところで期待ができるのはエジプトとトルコだったわけです。
しかしエジプトは軍事政権のような形で、一方のトルコは基本的には軍事政権とは言えませんが、憲法を変えて独裁制を突っ走っていくという国になったということなのです。そして驚くべきことに、これに賛成する人が51%もいたというわけなのです。
おさらいになりますが、トルコは、人口比でみた場合、イスタンブールのようにGDPの非常に大きい地域の全部が今回の改憲に反対しています。これらの地域は、どちらかというと外国との取引も多く、外国の人も住んでおり、外国からの訪問客も非常に多いところです。こうしたところは、エルドアン大統領にとってみると邪魔だということなのでしょう。
『グローバルマネー・ジャーナル』(2017年4月26日号)より抜粋
※記事タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による
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