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英EU離脱、交渉スタートで見えてきた「Brexitのリスクとコスト」=大前研一

英国メイ首相がEUに離脱を通知。これにより離脱条件などを決める原則2年間の交渉が始まりましたが、ここに来て法的リスクや貿易協定など、多くの問題が顕在化しています。(『グローバルマネー・ジャーナル』大前研一)

※本記事は、最新の金融情報・データを大前研一氏をはじめとするプロフェッショナル講師陣の解説とともにお届けする無料メルマガ『グローバルマネー・ジャーナル』2017年4月5日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に定期購読をどうぞ。
※4月2日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。

プロフィール:大前研一(おおまえ けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長。マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997~98)。UCLA総長教授(1997~)。現在、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役。

英国は独力でやっていけるのか?EU離脱交渉で顕在化する諸問題

【英国】今後2年間の交渉を経てEU離脱へ~噴出する法的リスク

英国メイ首相は先月29日、EUに離脱を通知しました。イギリスの駐EU大使が「リスボン条約50条」に基づいてトゥスクEU大統領に書簡を手渡したもので、これにより離脱条件などを決める原則2年間の交渉が正式に始まることになります。

実は、EUのメンバーには非常に悩ましい問題があります。離脱に伴い、法的リスクが発生する主な分野として、労働法、会社法、税金、環境、エネルギー、通信、航空宇宙、競争法など、非常に多くのものがあります。

私は今週ずっとBBCを見ていたのですが、実はEUに存在する1万2000もの法律が、イギリスには無いというのです。EUに入るときには、国内法とEU法が齟齬をきたしたときに、EU法が上回るという決まりがあります。つまり、同じものなら問題ないのですが、一致しなかったときは国内法は使わず、EU法を優先するというルールがあるのです。

そのことにより、無意識にEU法をずっと使ってきたわけですが、今度イギリスが離脱するとなると、対応する法律でイギリスには無いものが1万2000もあるということなのです。混乱を避けるためには、議会で1万2000もの法律をこれから作らないといけないのです。

保守党は、必要なものを作ればいいと言っていますが、労働党は、保守党に任せて必要なものだけ作らせたら何をやるか分からないとして、全部のEU法をイギリス法にコピーアンドペーストしろなどと議会で発言しているのです。コピペという言葉が、天下のイギリスのビックベンで出てきているのです。それほどに間に合わない状況で。大騒ぎというわけなのです。

英国の酪農家、研究者も頭を抱えている

離脱に伴う問題はこれにとどまりません。例えば、牛を飼っていたとします。EUでは、こういう餌は良いとかダメとか、搾乳の仕方や出し方まですべてに決まりがあります。それを守ることで、イギリスの酪農家はEUのブリュッセルから2500億円の補助金をもらっているのです。しかし離脱した場合には、例え基準を守っても、EU側はイギリスの酪農家の件は終了ということで、補助金はもらえません。イギリスの酪農家はその30億ポンドが来なくなれば、やっていけないことになります。

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また、イギリスの大学や研究所は非常にレベルの高いことをやっており、世界中からもヨーロッパからも優秀な研究者を呼んでいます。その分野でヨーロッパ大陸からイギリスに来て働いている人は多く、そこにも大変な額の補助金が出ているのです。その補助金がなくなったら、イギリス政府はそうした研究を続けることができなくなってしまうでしょう。

そうしたことで、酪農家と研究者たちは「なぜ離脱するのか」「自分たちは仕事ができなくなる」と頭を抱えているわけなのです。リスボン条約50条に基づいてBrexitをやったわけですが、今になって国民は青ざめているのです。メイ首相は「イギリスにとって有利になるようにする」と言っていますが、それは嘘になるでしょう。ヨーロッパ側はイギリスに有利になるようにはしないと言っているからです。

噛み合わない英国とEUの交渉

もう1つ重要な問題があります。イギリスは、交渉は並行してやりたいと主張しています。脱退後にどのような条件で輸出や輸入をするかということを、EU対イギリスのFTAでやりたいと、メイ首相は言っているのです。しかし一方、ヨーロッパ側は、それはとんでもない、まずは過去にイギリスがEUのメンバーとして払わなくてはいけなかった分担金「7兆3000億円」を払うべきだと主張しているのです。イギリスはそんなものは払えないと言いますが、EUは払わなければ離脱の議論はしないとしています。

イギリスは離脱の届け出をしましたが、今後は届け出てから2年間というのがリスボン条約の期限で、2年が経ったらイギリスは外へ出ることになります。交渉で何の約束もないまま外へ出ると、例えば日産のサンダーランド工場の車は、現在ヨーロッパ大陸にたくさん輸出していますが、離脱後は10%の関税がかかることになるのです。これはパニック以外の何ものでもありません。メイ首相はこうしたことを「これまで通りに」と要求していますが、まるで聞き入れられることではありません。

このように、かなり基本的な「本当に離脱するとどうなるか」のシミュレーションを、イギリスはやっていないということなのです。リスボン条約は届け出てから2年で離脱手続きの完了をすることと規定していますが、グリーンランドは前身のECから離脱する際に、3年かかったと言います。離脱については、イギリスは大チョンボをやったという方向に向かっているのです。

Next: 統合に消極的な国は置いてきぼり。明らかに変質してきたEU伝統の精神

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