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英EU離脱、交渉スタートで見えてきた「Brexitのリスクとコスト」=大前研一

【EU】「マルチスピード構想」で変質する伝統の精神

日経新聞は先月25日、「英なき構想、揺らぐ結束」と題する記事を掲載しました。EUの27カ国がローマで首脳会議を開き、EUの将来像を描いたローマ宣言を採択しました。意欲のある一部の国だけが先行して統合を深める「マルチスピード構想」が柱となりましたが、裏返せば、統合に消極的な国は置いてきぼりにすることを意味しており、すべての加盟国が一緒に行動するという伝統の精神は明らかに変質したとしています。

今回はローマ条約60周年ということで、実はローマ法王のところへ集まってきているのです。ローマ法王は、各国首脳を前にスピーチをしました。私はその内容にちょっと驚きましたが、ヨーロッパの強さは結束だとして、イギリスに対して嫌味を言ったわけです。会議には27カ国しか来ておらず、メンバーだったにも関わらず、すでにイギリスは参加していなかったのです。

EUの歴史を振り返ると、鉄鋼条約や欧州原子力共同体(ユーラトム)に始まり、次々と進んできて、ついにEUとなり、ユーロが採用され、通貨統合だけでなくあらゆる基準を合致させていくことになりました。今ではギリシャの問題を契機として、国家予算も最終的にはEUの方で承認することにしないと、イカサマな予算を作った国があると手遅れになるという形になりました。

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銀行管理についても、イタリアの銀行などでいくつか危ないところがありますが、そうしたところの審査もEUでやろうということになってきています。つまり、国別に任せておいてはいけないと、通貨を統一のユーロにしただけではなく、国家予算や銀行管理もEUでやろうというところまで来ているわけです。そしてその矢先に、イギリスが離脱するということになったのです。

マルチスピード構想」ですが、これにはポーランドなどが反対しています。また、EUは全員一致が原則でやってきたわけですが、9日にはEU大統領再任を巡って、トゥスク大統領の出身母体であるポーランドでは彼の反対勢力が政権を握っているため、ポーランドとしては反対に回ったというとても恥ずかしい状況が起きています。トゥスク大統領はやや気の毒な状況ですが、国内の政敵に足元をすくわれるといった事態も生じています。ただ、ローマ法王のスピーチの内容は良かったと思います。

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グローバルマネー・ジャーナル』(2017年4月5日号)より抜粋
※記事タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による

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