【親分、チンピラを潰すことを決める】
そんな話を耳にした「親分」はもちろん、黙っちゃいない。
「今のところあのチンピラの武器は、あの情けない俺の子分を半殺しにできるようだが、俺の身はまだ安全なようだ。だったら、まだ俺のところまであいつの武器が届かないうちに、潰しておかないと、俺の身がヤバくなる。今潰しておかなきゃいかん」
そう考えた親分は、今のうちにそのチンピラをぶっ潰しておこうと決めた。
とは言え、1つだけやっかいな事がある。
「俺があのチンピラに攻撃を仕掛けたら、おそらくあいつはすぐに反撃に打って出て、俺の子分のあの情けない男をすぐに半殺しにしてしまうだろう。」
この親分にしてみれば、あの子分はまずまず使い勝手もよく、小金も持っているから重宝していたのだから、半殺しにされて、もう使い物にならなくなるのは少々もったいない――とはいえ背に腹は代えられない――自分が将来やられちまうことを考えればあの少々便利な子分ごとき、半殺しの目に遭おうが消えて無くなろうがまぁ、たいしたことじゃない――そう考えた親分は、かの「情けない男」を呼びつけてこう言った。
親分「おい、あのヤバイおまえの隣人、あいつは俺を攻撃する武器を作ってるようだ。それが完成すりゃ、俺は何をされる分かんねぇ。だから俺はもう、あいつをぶっ潰すことにした。お前も俺に協力しろ。分かったな」
子分「はい、親分がそうおっしゃるなら、分かりました。喜んで協力します!」
親分「もちろん、あいつは反撃してくるだろうけど、大丈夫だ。俺がおまえを守ってやるから。心配するな。安心しろ」
子分「なんとお優しいお言葉! 分かりました、ありがとうございます!」
【媚びてばかりで、完全な馬鹿になっていた子分】
もちろん、「大丈夫だ、安心しろ」という「親分」の言葉はウソだ。そんな保証なんてどこにもない。もうその凶暴なチンピラは、情けない子分を半殺しにできる力を身につけてるんだから、攻撃を仕掛けりゃ、その子分は半殺しにされるに決まっている。
だけど子分は、「はい、分かりました」しか言いようがない。ここで親分に盾をついたら、何をされるか分からないからだ。今までずっとイエスマンとして親分の言いなりになってきたその情けない男にはもう、他に残された道などどこにもないのだ。
というよりも、自分で考える力も気力もなくなっているから、親分が大丈夫だって言ってるんだから、大丈夫なんだろう――と馬鹿丸出しで思っているようだった。
その馬鹿っぷりに、町中の人々が唖然とした。半殺しにされるのに、何が「なんとお優しいお言葉!」だ。こいつは馬鹿か――? 皆がそう思った。
ただし、一番びっくりしているのが、その親分自身だった。
「こいつ、ホント馬鹿だなぁ。半殺しにされるのは俺じゃ無くてお前なんだぞ? なのに、やけに素直に俺の協力するって、しかも『なんとお優しいお言葉! ありがとうございます!』とまで言ってやがる。
とはいえまぁ、こんな都合のいいこたぁねぇ。たっぷりと自ら進んで必死に協力してもらって、半殺しになってもらって、全部こいつの自己責任ってことにしておきゃぁ、それでいいだろう。ほんと馬鹿だなぁこいつ」