恐怖する国民
これがいまの状況である。これからアメリカは、激戦州の得票数を巡る長い法廷闘争という泥沼の混乱状態に突入する。
トランプもバイデンもどちらの陣営も引き下がることはない。だが、全米で起こる両陣営の衝突と暴力を見て、アメリカのこれ以上の分断を望まないほうが、得票数にかかわらず敗北宣言をする可能性がある。
要するに、良識がある側が敗北宣言をするということだ。
良識の有無という基準だと明らかにバイデンのほうがあると思われるので、泥沼の闘争のすえ結果的にはバイデンが敗北宣言をする可能性がある。
多くのアメリカ人の書いた記事やSNSの書き込み、そしてブログなどを毎日読んでいると、彼らがいまの状況に戸惑い、驚き、また恐怖している様子がよく伝わってくる。「自分の人生でここまで憎しみと対立が激化した国内の出来事は経験したことがない」というのが多くのアメリカ人の感想だ。
1968年にマーチン・ルーサー・キング牧師の暗殺を機に始まった大暴動や、同時期に盛り上がったベトナム反戦運動やヒッピームーブメントなど、アメリカ史に残る大きな社会変動を体験してきた60代後半以降の世代にとっても、今回の大統領選挙が引き起こした分断は体験したことがない水準に達しているといっている。
この左右の対立の激しさの根底にあるのは、制御ができないほど高まった憎しみである。
この憎しみの強さは、南北戦争の始まる1年前の1860年当時によく似ているという意見も多い。そして、こうした激しい憎しみの源泉になっているのが、両者の基本的な世界観の違いである。日本からでは、彼らがなぜ相互に憎しみ合うほど世界観が異なるのか理解できないことが多い。もちろん、格差社会になった日本でも異なった社会層による分断は大きくなっているが、アメリカほどの憎しみを惹起する分断の水準にはない。
分断されたアメリカ合衆国
アメリカはこれから泥沼の混乱期に突入する。だが、両者のこの世界観の違いを理解しない限り、なぜ混乱し対立しているのかが分からないはずだ。
筆者は2018年に「2020年にアメリカは分裂する」という本を書いた。はからずも的中してしまったようだが、今回はこの本の冒頭部分の一部を修正して、掲載することにする。
両者の憎しみの根源にある世界観の違いがよくわかるはずだ。