ダブル・スコープ<6619>は、リチウムイオン二次電池用セパレータの製造・販売を主力とする素材メーカーだ。韓国子会社を中心に量産体制を構築しており、EV向けを主軸に成長してきた。現在はESS(蓄電システム)向けやイオン交換膜(特定のイオンのみを通す機能膜)事業の拡大を進め、事業ポートフォリオの転換を図っている。グループは韓国法人のW-SCOPE KOREA(WSK)、W-SCOPE CHUNGJU PLANT(WCP)、ハンガリー法人のW-SCOPE HUNGARY PLANT(WHP)などで構成され、欧州・米国・アジア向け供給体制を持つ。従来はEV向けセパレータが中心だったが、近年はESS向けやリチウム精製用途向けイオン交換膜事業(IEM事業)を新たな収益柱として育成している。
2026年1月期の業績は、売上高36億円(前期比88.3%減)、営業損失49億円(前期は10億円の営業損失)となった。背景には、欧州EV市場の停滞とWCPの持分法適用会社化による連結売上減少がある。欧州ではウクライナ侵攻長期化やエネルギー政策の影響によりEV需要の回復が遅れ、主力市場の販売数量が低迷した。一方で、米国ではデータセンター向け電力需要増加を背景にESS市場が拡大しており、電池メーカー各社がEV向けからESS向けへ用途をシフトする動きが進んでいる。同社も2026年1月期第4四半期からESS向けの出荷を進めており、足元では徐々に回復基調が見え始めている。
セパレータ事業は、EV向け販売低迷が続いた一方、ESS向け新規案件の立ち上がりが進展している。上期に1案件、下期に1案件の量産開始を前提としており、ESSの韓国政府入札案件向けへの供給も進んでいる。ESSはデータセンター向け蓄電池需要や電力系統安定化需要を背景に市場拡大が続いており、EVよりも景気変動耐性が高い点が特徴だ。同社にとっては、固定費回収を進めるうえで重要な市場となる。特にハンガリーのWHPは欧州向け供給拠点として先行投資を行ってきたが、欧州EV需要停滞で稼働率低下が続いていた。ESS向け拡大は、この大型設備の稼働率改善につながる可能性がある。
一方、IEM事業は新たな成長分野として存在感を高めている。Posco Argentina向けBPED(双極電気透析)モジュール交換需要への対応に加え、Poscoグループ向けにリチウム精製プラント用モジュール供給も開始した。アルゼンチンやチリでは塩湖からリチウムを抽出する需要が拡大しており、その工程で同社製品が使われている。特にIEM事業はセパレータ事業より利益率が高いとされ、今後比率を高めていく方針だ。現在は一部案件で設備投資遅延により出荷開始が遅れているものの、交換需要を含めた継続受注が期待される。
2027年1月期会社計画は、売上高60億円(前期比65.2%増)、営業損失24億円を見込む。依然赤字ではあるが、損失幅は大きく縮小する計画だ。増収要因はESS向け新規案件立ち上がりとIEM事業拡大であり、固定費回収の進展が利益改善につながる構図だ。会社側は通期見通しを保守的に置いている印象も強く、ESS案件の立ち上がりが順調に進めば上振れ余地もある。特に営業黒字化については、四半期ベースでは2027年1月期後半に視野に入る可能性があり、通期黒字化は次期以降が焦点となる。
市場環境を見ると、EV市場は中国が引き続き拡大している一方、欧州では需要回復が遅れている。特に中国勢が低価格帯EVとリン酸鉄リチウム(LFP)電池で競争力を高めており、欧州メーカーは苦戦が続く。一方、ESS市場は世界的に拡大局面にあり、データセンター向け電力需要増加、再生可能エネルギー普及、米国電力網老朽化などを背景に需要が増加している。同社は従来、欧州高級EV向け比率が高かったため、中国勢との価格競争の影響は限定的だったが、今後はESS向けを強化することで需要変動耐性を高める戦略だ。
競合比較では、同社はセパレータ専業に近い事業構造を持つ点が特徴だ。大型投資を伴う設備産業であり、参入障壁は高い。特に欧州向け供給体制を早期に整備していた点は優位性だが、EV市場停滞で先行投資負担が重くなった。一方で、IEM事業という新規高収益分野を持つ点は他社との差別化要因となる。財務面では大型投資による借入負担があるものの、ハンガリー政府補助金や韓国WCPの社債発行などを通じて資金確保を進めている。今後は大型追加投資を抑制し、既存設備の稼働率向上を優先する方針だ。
株主還元については、現在無配が続いている。過去には配当実績もあり、通期黒字化と財務安定化が進めば将来的な還元再開を目指す考えを示している。現時点では成長投資と財務健全性維持が優先課題である。株価指標面ではPBR0.3倍台と低位にあるが、市場は依然として赤字継続リスクを織り込んでいる状況だ。
総じて同社は、欧州EV依存からESS・IEMへ事業構造転換を進める転換局面にある。短期的には赤字継続と固定費負担が重石となるが、ESS量産立ち上がりとIEM拡大が進めば、収益改善余地は大きい。特にハンガリー工場の稼働率改善、ESS案件の本格寄与、IEMの高収益化が今後の株価評価を左右する重要なポイントとなる。
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