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信越化学、なぜ減益決算でも株価上昇?AIと地政学リスクが追い風になる理由=元村浩之

信越化学工業の最大の特徴は、現在進行形で世界を席巻している「AIブーム」と、多くの企業が頭を悩ませている「地政学リスク」という、本来であれば相反しかねない二つの要素を、どちらも自社の「追い風」に変えてしまう点にあります。多くの会社が地政学リスクを懸念材料とする中で、信越化学工業はむしろそれをビジネスの優位性に変える事業構造を持っており、投資家にとっては非常に希有な、そして頼もしい存在と言えます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』元村浩之)

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プロフィール:元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問アナリスト。1982年、長崎県生まれ。県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。2022年につばめ投資顧問に入社。長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。

世界を圧倒する4つの事業領域

同社のビジネスは、大きく分けて4つのセグメントで構成されています。

1つ目は、塩化ビニル樹脂(塩ビ)を代表製品とする「生活環境基盤材料事業」です。

2つ目は、半導体関係の製品を幅広く手がける「電子材料事業」。

3つ目はシリコーンなどの「機能材料事業」。

そして4つ目が「加工・商事・技術サービス事業」です。

驚くべきは、これらの事業で取り扱う製品の多くが、世界でシェア1位や2位、あるいは国内で圧倒的なトップシェアを誇っているという点です。
ニッチな分野から汎用品に至るまで、世界中で「信越化学の材料がなければ成り立たない」という状況を作り出しているのが、この会社の強さの源泉なのです。

信越化学工業<4063> 日足(SBI証券提供)

信越化学工業<4063> 日足(SBI証券提供)

「増収減益」の背景

4月28日に発表された2026年3月期の決算は、売上高については2023年のピーク後に一旦下がったところから右肩上がりに回復を見せたものの、営業利益については対前年で少し落ち込むという、いわゆる「増収減益」の結果となりました。

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出典:信越化学工業 決算短信

この利益を押し下げた主犯は、稼ぎ頭の一つである「生活環境基盤材料事業」です。
このセグメントの営業利益は、対前年で43%も大幅に下落しました。

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出典:信越化学工業 決算短信

一方で、半導体関連を担う「電子材料事業」については、シリコンウエハやフォトレジスト、フォトマスクブランクスといった製品が着実に利益を伸ばしており、全体としてはこの二つの事業が明暗を分ける形となりました。

<塩化ビニル樹脂事業に訪れた「ダブルパンチ」>

なぜ、これほどまでに塩化ビニル樹脂事業の利益が落ち込んだのでしょうか。
そこには2つの大きな「外圧」がありました。

1つは、米国市場における住宅需要の減退です。
塩化ビニル樹脂は住宅の配管(パイプ)などに使われる汎用的な素材ですが、米国の利上げが高止まりしたことで住宅着工が鈍り、需要が一時的に後退しました。

もう1つは、中国メーカーによる安値攻勢です。
中国国内の不動産不況により内需が冷え込む中で、中国メーカーは工場の稼働を止めることができず、余った製品を安値で米国市場などへ放り出しました。
信越化学は米国子会社「シンテック」を中心に取引を行っていますが、この中国勢の安値輸出が市場の市況を悪化させ、値下げ圧力がかかった結果、利益率が低下するというダブルパンチに見舞われたのです。

<なぜ信越化学は期首に予想を出さないのか>

今回の決算で投資家を少し不安にさせたのは、今期の業績見通しが発表されなかった点かもしれません。
しかし、これは信越化学にとっては毎年のことであり、特殊なことではありません。

同社は正確な情報を非常に重視する企業風土を持っており、現況をしっかりと読み、正確な情報が掴めない限りは中途半端な見通しを出さないという、職人気質な姿勢を貫いています。
例年、第2四半期や第3四半期が終わった段階で見通しを開示するのが通例となっており、期首に予想がないからといって悲観する必要はありません。

<減益決算でも「窓を開けて上昇」した理由>

興味深いのは、この増収減益決算を受けて株価がぐんぐん上昇したという事実です。
決算発表後、株価は窓を開けて上昇しました。

投資家は、単なる数字の増減以上に、決算説明会後のQ&A資料などに示された「信越化学はどんな状況になっても強い」という内容を高く評価したようです。
目先の減益よりも、将来に向けた布石や、AI、地政学リスクへの対応力に期待が膨らんでいる状況です。

Next: 信越化学は買いか?長期投資家が推したくなる3つのポイントとリスク

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