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米国のインフレ退治を目的とする利上げが続き、日米金利差が意識される中でドル円相場は歴史的な円安ドル高の地合いが続いています。この先、ドル円はどこに向かうのでしょうか。そもそもドル円とはどんな通貨ペアで、FX投資家はどう向き合っていくべきなのでしょうか。
トレイダーズ証券のCSOであり、現役の為替ディーラーやラジオパーソナリティとしても活躍する井口喜雄さんに、普遍的なドル円との向き合い方についてお話を聞きました。井口さんは1988年から20年以上にわたって活躍する現役ディーラーで、日々アップデートし続けるノウハウから、ユニークな戦略も語っていただきました。(FX雑誌『外国為替』vol.10より再構成/インタビュー日:2024年3月21日)
井口喜雄(いぐちよしお)氏プロフィール

トレイダーズ証券取締役(CSO)。現役為替ディーラー。認定テクニカルアナリスト。1998年よりディーラーとして活躍し、ドル円や欧州通貨を主戦場に20年以上ディーリング業務を行う。ファンダメンタルズから見た為替分析に精通しているほか、テクニカルを利用した短期予測にも定評がある。ロイター、日経CNBC等のメディア出演や、FX雑誌等への連載多数。【著書】1日で数百億を動かす現役ディーラーが教える勝者のトレード(KADOKAWA)
ドル円の「テーマ」は常に変化している
─米国のCPIやFOMCの政策金利、日銀の利上げなど、日米の金利が注目される相場が続いています。この相関関係は今後も続くのでしょうか。
井口 ちょっと思い出していただきたいのが、コロナ相場です。世界の主要国が金融緩和をしたため、世界から金利がなくなった時期がありました。直近なのに、今とは別世界の相場があったわけです。今はこんなに注目している金利差ですが、マーケットが金利差を忘れ去っていた時期があったことは明確な事実です。
─金利差がないときのドル円は、どんな「テーマ」が注目されていたのですか?
井口 ひと昔前、円は安全通貨の代表格でした。マーケットが冷え込むと円買いが起きるので、ドル円やユーロ円はそこだけを見ていれば良かったのです。マーケットのリスク許容度でトレードができましたが、今の円にその地位はありません。
─そうなると、円が買われる要因は見つけにくい状況でしょうか。
井口 安全通貨としての地位はありませんが、円キャリーのポジションがすでにかなり積み上がっています。この円キャリーの手仕舞いは円買いになるので、この動きが起きたら円高要因にはなりますね。
─あくまでも米国や大口投資家次第で、日銀主導、日本発の円買いトレンドは考えにくいということですね。
井口 トレンドを変えたいのであれば、日銀が明確に利上げのメッセージを出せばいいと思います。個人的にはないと思いますが。短期筋も今は円売りに自信を持ってトレードをしていますからね。
─今後の日米金利や、1年後のドル円レートを大胆予想するなら、いかがですか?
井口 日銀は利上げをしても、0.25%くらいでしょう。そうなるとインパクトは弱いので、ドル円レートにそれほど影響はないと見ています。米国の金利が4.75%くらいだとすると、ドル円は今の150円前後の水準が居心地いいのかなと思います。すでに日本の利上げや米国の利下げは織り込まれてるでしょうし。
ドル円は流動性が高くやりやすい通貨ペア
─ここからはドル円という通貨ペアについてお聞きします。プロのディーラーとして、ドル円とはどんな通貨ペアだと捉えられていますか?
井口 ドルと円はどちらも、以前は安全通貨でした。「有事のドル買い」「有事の円買い」という言葉もあったほどです。属性が似ていることもあって、その通貨ペアであるドル円はあまり大きな値動きが起きないイメージがありました。平たく言えば、つまらない通貨ペアですね。
─今はその状況ではないということですね。
井口 アフターコロナで金利差が開いてからは円安トレンドが発生し、ボラティリティのある通貨ペアになりました。レンジで考えるのが普通で大きな利益を取りにいくのが難しいドル円だったのが、今は全く様相が変わりました。
─ドル円は他の通貨ペアと比べると実需による影響が大きいと言われています。井口さんはドル円と実需の関係については、どう思われていますか?
井口 最終的には実需に落ち着いていくのが、マーケットの世界です。しかし短期売買では実需が反映されにくくなります。FXは短期売買メインということもあって、実需にあまり囚われすぎるとレバレッジ取引では思い通りになりにくいかもしれません。
─これらの他に、FX初心者が知っておくべきドル円の特徴はありますか?
井口 流動性が高いのでスプレッドが狭く、低コストでトレードができます。値飛びが少なく、安定感もあります。長年為替ディーラーをやっていると、流動性が低いことがいかに怖いかをよく知っているので、流動性の高さはドル円の強みです。
通貨ペア選びでは日本にいる特性を生かすべき
─流動性の高さやコストの安さを考えると、やはり初心者はドル円から始めるのが良いでしょうか。
井口 もちろんそうですし、そうでない場合であってもせめてクロス円ですね。クロス円は合成通貨ペアだからやりにくいと言われますが、日本にいる優位性を生かせる通貨ペアでもあるんです。
─日本にいる優位性とは、どういう意味ですか?
井口 海外勢も日本のニュースヘッドラインを見てトレードをしているわけですが、日本語で出されたヘッドラインが出てからレートに影響が出るまで短くて数秒、長くて数十秒かかることがあります。このタイムラグは、日本語でヘッドラインを読める私たち日本人にとって優位性となります。
─なるほど、言葉の壁を逆手にとって日本発のニュースを先取りできるわけですね。
井口 そういうことです。今のマーケットはAIによるヘッドラインのテキストマイニングで初動が動きます。しかしAIも万能ではなく、日本語の微妙な解釈において間違った判断をしたり、出遅れたりします。
─日本語は前後関係やニュアンスによって解釈が微妙に変わることがあるので、それをより正確に解釈できる日本人に「地の利」があるということですね。
井口 財務省の神田さんが喋るだけで円買い、みたいな初動が起きることもありますからね。何を喋ったのかを正確に解釈してトレードをするとなると時間がかかるでしょうし、喋っただけで動いてしまうと間違った判断をしてしまうこともあるわけです。
─そういった、間違った判断によるトレードでも売買チャンスにできるということですか?
井口 日本人的な考えでは、なぜ材料視されるの?と思うようなことでも反応したりします。しかしそれが間違いだと手仕舞いの動きが起きるので、そこを狙って逆張りというのもアリです。
─だからこそ、ドル円だけでなくクロス円など円絡みの通貨ペアは日本にいることを優位性にできるのですね。
井口 合成通貨だからやりにくい、ということよりも日本にいる優位性を生かすと面白いですよ、というわけです。でもロシアルーブル円みたいに、流動性がなくなってしまった通貨ペアは論外ですが。
テクニカルは相場の地図。多数決でチャートは動く
─テクニカルについてお聞きします。井口さんはテクニカル分析をどの程度重視されますか? また井口さんにとってテクニカルとはどんな位置づけですか?
井口 二つのポイントがあります。まず、私にとってテクニカルは相場の地図のような位置づけです。何もないよりもカーナビがついているほうが目的地に到着しやすい、というイメージです。値動きや相場の流れを可視化してくれるありがたい存在です。
もう一つ、チャートは「皆が見ている」事実が重要です。マーケットは美人投票なので、自分がどう思うのかよりも多くの人がどう思っているのかを重視するべきです。そのためには、皆が見ているチャートに注目するのが最善です。
─テクニカル分析の中で、重視しているインジケーターはありますか?
井口 よく見ているのは、水平線ですね。直近のサポートやレジスタンスです。それ以外にもいろいろなインジケーターを複合的に見て判断材料にしています。
─井口さんはどうやってテクニカル分析を学び、使用するインジケーターを選ばれたのですか?
井口 ひと通り有名なインジケーターをバックテストしてみることから始めました。テクニカルは枝葉が分かれていて種類も多いですから、そういったものを含めると100種類くらいはあるんじゃないでしょうか。これらをバックテストしてみて成績の良いものを絞り込んでいきました。
─その結果、絞り込まれたインジケーターはあるのですか?
井口 膨大なバックテストをやってみた結果、普遍的にずっと勝てるものはないという結論に達しました。さまざまな相場の局面によって、適しているインジケーターは異なるということです。状況に応じて重視するインジケーターを変えたり組み合わせたりするのも、バックテストの結果から得られた結論です。
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最強、特別、唯一無二なインジケーターは存在しない
─これからテクニカル分析を学びたいと考えている人に向けて、インジケーターの選び方や方向性を教えていただけますか。
井口 一番お伝えしたいのは、「何か特別な最強のインジケーターがあるかもしれない」という思いを持ちすぎないことです。そんなものがあればとっくに有名になっているでしょうし、そんな万能のインジケーターはありません。そう思いたい気持ちは分かりますが、そこに落とし穴があるので注意してください。
─私も同じことを考えたことがありますが、考えてみれば当然だと思います。
井口 自分に合うものはどれか?を知るために、あまり偏った考えを持たずにレバレッジを低めにした上でいろいろと体験してみるのがいいでしょう。相場の多数派を知るのもテクニカル分析の役割なので、マイナーなものよりも有名なものに絞ったほうがベターです。
─移動平均線やボリンジャーバンド、一目均衡表など、よく知られているインジケーターですか。
井口 そうです。それならどのFX会社のチャートツールにも実装されているはずですし。
─それらのインジケーターなら無料で使えるのが普通です。新たな投資をすることなく使えるのでハードルも低いと思います。
井口 すごいとっておきのインジケーターだと思って飛びついたら、それが投資詐欺だったとなると別次元のリスクにつながります。人は「自分しか知らない情報」に憧れがちですが、そこはセオリーに忠実にお願いします。地道にやる努力は、嘘をつきません。
チャート上に線を引いてしまうことの危うさ
─テクニカル分析を学び始めた人、学び始める人に対して注意喚起するとしたら、どんなことですか?
井口 チャート上にいろんな線を引くことから始める人っていますよね。たしかに基本の一部ではありますが、安易に信じすぎるのは危険です。過去のチャートを見せて「こうだったんですよ」という見せ方も簡単にできてしまうので、「これはすごい!」と思ってしまいがちですが、そこにもリスクがあります。
─たまたまビギナーズラックみたいに成功してしまうと、もっと信じてしまいそうですよね。
井口 それでロットを大きくしてしまうと一発退場になる恐れもあります。どこでも通用する最強の手法はないと断言できます。それだけで勝てるような世界ではありません。
─手法を自動化したEAについてはいかがですか?
井口 もちろん機能しているEAもあるかもしれませんが、この10年くらい成績が良かったとしても、相場のテーマは変わり続けています。同じEAや同じ設定のまま成績を維持できるかというと、疑問符がつきます。
─EAを使用するとしても、常に変化を見つつ、チューニングも必要ですね。
トレンドフォローから勉強するのがオススメ
─本格的にFXを学ぼうとしている読者に向けて、オススメの勉強法はありますか?
井口 結局のところチャートを見て学んでいくことは変わりませんが、最初はトレンドフォローから始めることをオススメします。FXは狭いタームで相場と向き合うことが多いですから、その時その時のトレンドに乗って順張りでついていくのがいいです。
─それは、なぜですか?
井口 逆張りは決まると気持ちいいですが、初心者はまず退場しないことを最優先にするべきです。逆張りは大きな負けにつながりやすく、トレンドフォローのほうがリスクは低いです。
─しかし、実際はほとんどのFX投資家が逆張りスタンスではないかと思います。
井口 どの教科書にもトレンドフォローが大事と書いてあるんですが、ほとんどの人は値ごろ感での逆張りをしているのが実情です。実はこれこそ、トレンドフォローが勝ちやすいといえる理由なんです。
─逆張りのポジションが「養分」になってしまうということですか?
井口 ストップ注文を燃料にしていく動きが起きることもあるじゃないですか。逆張りは常に捕まるリスクと隣合わせで、大口投資家もそんなポジションを狙ってきます。
─トレンドフォローだとそのリスクが少ないということですね。
井口 少なくとも、大怪我のリスクはかなり低くなります。
─最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
井口 FXで最も大事なことは、長生きすることです。長生き=勝ちといっても良いくらいなので、退場してしまわないことを常に意識して取り組んでください。長生きをした投資家は資産を大きく減らしていることはないはずですし、逆にトータルで勝っている人が大半だと思います。
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