【第12回】SNSの追悼コメントで自己アピールする人ってどう思う? 春日武彦✕穂村弘対談

 

他人の死に狼狽えてたら医者はできない

穂村 先生は仕事柄、普通の人よりも「死」というものに頻繁に接していると思うんだけど、「他人の死」と、来たるべき「自分の死」とは、近いものとして捉えている? それとも遠い?

春日 他人の死と、自分の死は、まあ全然違うよね。俺は、はっきり言うと、他人が死ぬことについては何とも思わないんだよね。まあ、しゃあないじゃんという感じでさ。自分の死に関しては、これまでの対談を振り返れば明白なように、ぐじぐじと考えてしまいがちだけど(苦笑)。

穂村 でも、同じ他人でも、濃淡があるでしょ。関係性によって変わってくるんじゃ?

春日 うーん、多少の濃淡はあるけど、やはり他人ということでどこか冷淡なんだなあ。母が亡くなった時は涙でも出るかと思ったらそんなこともなかったし。喪失感はあったけど、泣くのとは文脈が違うって感じていたしね。

そのあたり、ちょっと俺の心は問題があるのかもしれないな。ドライすぎるのかね。だって外科の連中なんかはさ、自分の家族のオペは決してしないなんて不文律があるくらいでさ。

穂村 そうなんだ。自分の家族を処置できないというのは、そこで感情が動くからですか。

春日 そう。手術するのが身内とかだったら、やっぱり「痛いかな」「死んだら悲しいな」みたいな余計なことを考えてしまって、判断が鈍るということがあるから。俺もそこは同じだろうと思うんだけど、死者になってしまったということになるとたちまち他人モードに切り替わっちゃう、ってことね。

穂村 つまり、職業的な意味で「平気」ということね。

春日 そうだね。患者が死ぬのはもちろん残念なことだし、死なせたくない。でも、それは現実に起こり得ることでもある。産婦人科にいた時は、他に癌患者も扱っていたから、死はとても身近なことだったよ。

精神科として遭遇する患者の死は、自殺か、原因不明の突然死か、だいたいそのどちらかかな。最近あの患者来ないな、と思ってたら死んでたとか、あるいは警察から問い合わせが来て、その死を知る、みたいな感じだね。

いずれにせよ、患者が死ぬたびに狼狽えたり、大ショックを受けてメシが喉を通らなくなるみたいな状態だったら、この仕事はできないからね。もちろん担当医として対応のやり方が適切だったのか吟味してみるとか、反省すべきところがあったのかは振り返ってみるよ。残された家族がいたら、話し合ってみたりもする。

でも、そこで妙に考え込んでしまったり、感情を動かされすぎる人は、俺はあまり大したことのない医者だと思ってるよ。だからこそ、自殺されても罪悪感は持たないし、医者を辞めようなんてことも思わない。

穂村 冷静を保つことで医者は自身のメンタルを守れるし、それは延いては患者のためでもある、ということか。

春日 ミイラ取りがミイラになったらお終いだからね。でも、ちゃんと患者のことは考えているし、ラーメン屋の「心を込めて営業中」ってプレートじゃないけど(笑)、誠心誠意やってますからね。安心して身を任せてくれていいですよ。

11月②_トリ済み2②

 

(第13回に続く)

春日武彦✕穂村弘対談
第1回:俺たちはどう死ぬのか?春日武彦✕穂村弘が語る「ニンゲンの晩年」論
第2回:「あ、俺死ぬかも」と思った経験ある? 春日武彦✕穂村弘対談
第3回:こんな死に方はいやだ…有名人の意外な「最期」春日武彦✕穂村弘対談
第4回:死ぬくらいなら逃げてもいい。春日武彦✕穂村弘が語る「逃げ癖」への疑念
第5回:俺たちは死を前に後悔するか?春日武彦✕穂村弘「お試しがあればいいのに」
第6回:世界の偉人たちが残した「人生最後の名セリフ」春日武彦✕穂村弘対談
第7回:老害かよ。成功者が「晩節を汚す」心理的カラクリ 春日武彦✕穂村弘対談
第8回:年齢を重ねると好みが変わる? 加齢に伴う「ココロの変化」春日武彦✕穂村弘対談
第9回:俺の人生ってなんだったんだ…偉人たちも悩む「自己嫌悪な半生」 春日武彦✕穂村弘対談
第10回:死後の世界って言うけど、全然違う人間として死ぬんじゃないかな。春日武彦✕穂村弘対談
第11回:なんでいつもこうなるんだ…人はなぜ、負けパターンに縛られるのか?春日武彦✕穂村弘対談

【ニコ・ニコルソン関連記事】え、こんなことで? 指導のつもりが「うっかりパワハラ」に注意

春日武彦(かすが・たけひこ)
1951年生。産婦人科医を経て精神科医に。現在も臨床に携わりながら執筆活動を続ける。著書に『幸福論』(講談社現代新書)、『精神科医は腹の底で何を考えているか』(幻冬舎)、『無意味なものと不気味なもの』(文藝春秋)、『鬱屈精神科医、占いにすがる』(太田出版)、『私家版 精神医学事典』(河出書房新社)、『老いへの不安』(中公文庫)、『様子を見ましょう、死が訪れるまで』(幻冬舎)、『猫と偶然』(作品社)など多数。
穂村弘(ほむら・ひろし)
1962年北海道生まれ。歌人。90年、『シンジケート』でデビュー。現代短歌を代表する歌人として、エッセイや評論、絵本など幅広く活躍。『短歌の友人』で第19回伊藤整文学賞、連作「楽しい一日」で第44回短歌研究賞、『鳥肌が』で第33回講談社エッセイ賞、『水中翼船炎上中』で第23回若山牧水賞を受賞。歌集に『ラインマーカーズ』『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』、エッセイに『世界音痴』『現実入門』『絶叫委員会』など多数。
ニコ・ニコルソン
宮城県出身。マンガ家。2008年『上京さん』(ソニー・マガジンズ)でデビュー。『ナガサレール イエタテール』(第16回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品)、『でんぐばんぐ』(以上、太田出版)、『わたしのお婆ちゃん』(講談社)、『婆ボケはじめ、犬を飼う』(ぶんか社)、『根本敬ゲルニカ計画』(美術出版社)、『アルキメデスのお風呂』(KADOKAWA)、『マンガ 認知症』 (佐藤眞一との共著・ちくま新書) など多数。

漫画&イラストレーション:ニコ・ニコルソン
構成:辻本力
編集:穂原俊二
print
いま読まれてます

  • 【第12回】SNSの追悼コメントで自己アピールする人ってどう思う? 春日武彦✕穂村弘対談
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け