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中国「顔認証」に再び脚光、脱マスクで買い物も改札も“顔パス”に。日本も追従するか?=牧野武文

コロナで停滞していた中国の顔認証技術が再び動きはじめました。社会はどう変わるのか、また日本も追従するのか?中国の現状と主要プレイヤーの戦略をお伝えします。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)

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※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2021年7月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。

コロナで止まった「顔認証技術」に再び脚光

コロナ禍が起こる前の2019年の最も熱い話題は、顔認証技術でした。アリペイ、WeChatペイの顔認証決済が急速に広がり、買い物をする時にはもはや財布どころかスマートフォンも不要。「スマホは忘れることはあっても、顔を忘れることはない」と顔認証決済端末が急速に普及をしていきました。

それ以外でも、テック企業の出退勤管理、大学やマンションで関係者以外を不用意に入れない工夫として、顔認証ゲートなども広まっていきました。

ところが、ご存知のように2020年に入ると、コロナ禍が起こり、全員がマスクをすることになり、顔認証が利用できないという状態になりました。

すぐに百度などを始めとするテック企業は、マスクをしたままで顔認証ができるようにし、同時に検温も行うというシステムを開発しましたが、認識精度は95%程度で、企業の出退勤管理程度にしか利用できません。この精度では、決済認証にはまったく不十分なのです。そのため、顔人認証の普及は完全に止まってしまいました。

しかし、今、新型コロナが終息をして、市民は再びマスクを外して街を歩くようになりました。都市によって規制はさまざまですが、マスクの着用義務は店舗を利用する時と、公共交通機関を利用する時に限定をする都市が増えています。特に気温が上がってからは、街を歩く時はマスクを外すか、あごかけにしている人が増えているそうです。

これにより、再び顔認証の技術が少しずつですが利用されるようになっています。長期トレンドで見れば、利用者の利便性と安全性の両方を考えると、顔認証が最も有力です。

今回は、顔認証関連産業には、どのような企業があり、どのような応用をしようとしているのかをご紹介します。

「顔」だけで買い物できる

中国は顔認証技術の応用にかけては、他国よりも先んじていました。

きっかけとなったのは、2015年にドイツのハノーファーで開催されたデジタル展覧会CeBITで、アリババの創業者ジャック・マーが行ったデモです。その会場で、スマートフォンを使って、アリペイの顔認証決済を実際に使って、切手を1枚購入するという内容のものでした。

このデモは世界に衝撃を与えたビッグデモとなりました。顔認証技術というのはその時には珍しいものではなくなっていたものの、それは実験室の中でのことです。アリペイという中国で広く使われている決済と連動して、顔パスで実際にものが購入できるという点が大きかったのです。

さらに、アリババは、2017年7月に浙江省杭州市の杭州博覧センターの中に、レジなしの無人スーパーの営業を始めました。入店時に改札のようなゲートにアリペイのQRコードをかざす必要はありますが、あとは商品を自由に手に取って、そのまま専用出口から出るだけで、どの商品が購入されたかを認識し、アリペイでの決済が行われます。

この「誰がどの商品を手にしたか」を認識するのに、店内カメラで撮影された映像から顔認証を行い、個人を識別するという技術が使われています。

また、同じ年の9月には、杭州市内で、ケンタッキーが運営する自然食レストラン「KPro」(ケープロ)が営業を始めました。入口に姿見ほどの大きさがあるタッチパネルディスプレイが並べられ、ここで料理を注文します。そして、決済は顔認証によるアリペイ決済になります。スマホをかざす必要はなく、スマホを忘れていても決済ができます。

2018年にアリババは、POSレジに後付けできる顔認証ユニット「チンティン」(トンボのヤンマの意味)を発売をし、2019年になるとセブンイレブンなどの小売チェーンに浸透していきます。販売価格は1199元(約2万円)と低価格に抑えられている上、決済人数に応じて最高1200元のキャッシュバック施策が行われ、実質無料で導入できることから、一気に広がりました。

ところが、2020年のコロナ禍です。多くの人がマスクをするようになり、顔認証決済が使えなくなってしまいした。

Next: コロナで止まった顔認証技術、開発の火は消えず

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