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“非減配”株の武田薬品工業は買い?巨額の借金を抱えながら配当を維持できるか?製薬会社のリスクと魅力を分析=佐々木悠

今回は、世界的な製薬企業である武田薬品工業<4502>を分析してみます。武田薬品工業は、安定したイメージを持つ製薬会社の代表格であり、10年以上減配しない株主還元を実現しています。しかしこの配当は今後も維持されるのでしょうか?また、製薬業界に潜む経営リスクはあるのでしょうか?今回は、武田薬品工業の企業分析を通じて、これらの疑問に答えていきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)

プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。

買収で急成長

武田薬品工業は日本トップのグローバル製薬会社です。

現在は医療用医薬品に特化したBtoB企業であり、消費者向けの医薬品は販売していません。(2020年アリナミンやベンザブロックを生産していた武田コンシューマーヘルスケアは米国企業へ譲渡)

直近3年は売上・利益共に右肩上がりで着実な成長を遂げています。

武田薬品工業<4502> 業績(SBI証券提供)

武田薬品工業<4502> 業績(SBI証券提供)

売上を支えているのは、潰瘍性大腸炎の治療薬「エンティビオ」です。2022年3月期において、この薬だけで5,218億円の売上を稼ぎ出し、業界では「ブロックバスター」と呼ばれる新薬となっています。エンティビオは、従来の医療を覆すほどの高い効能を持ち、他を圧倒するシェアを誇ることで知られ、潰瘍腫瘍性大腸炎の治療において独占的なシェアを持っています。

また武田は、日本に拠点を置きながら、海外売上が80%を超えています。

2018年を境に、日本の売上をアメリカが追い越した背景には、アイルランドの製薬会社、シャイアーの買収がありました。この買収は6兆8,000億円という規模で、ソフトバンクグループのアームHD3兆円を追い抜いて日本史上最大の買収となりました。

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出典:各年度決算短信より作成

武田のシャイアー買収の狙いは創薬力の強化市場の拡大です。

安定しているイメージの製薬会社ですが、10年前の武田の有価証券報告書を見ると現在の売れ筋の医薬品の名前はほとんど見当たりません。

つまり新薬を作り続け新たな収益源を創造する必要があるのです。理由は特許切れの問題があるためです。エンティビオのような画期的な薬でも、特許が切れた後はジェネリック医薬品などの後発医薬品が参入し、収益性が落ちてしまいます。

一方でリスクを排除するために新薬を開発しますが、その新薬開発が失敗すると製薬会社にとっては大きなダメージとなります。

つまり製薬業界は安定したイメージがありますが、製薬業界はギャンブル性の高い業界なのです。そのギャンブル性を排除するためにシャイアーに代表される買収などを行い、会社規模を大きくして研究開発費を拡大させるのです。

シャイアーは希少疾患に強みがあり、そのノウハウと患者・行政との接点が武田にとってのメリットと判断し買収に至りました。結果的に武田は買収前世界第19位の売上でしたが、現在ではトップ10入りする規模に成長しました。

一方でこの買収は大きな不安を生みました。一言で言えば高すぎたのです。

買収のダメージを本業でカバーする

武田がシャイアーを買収した際、純有利子負債が買収前の8,000億円から5兆9,000億円まで膨張しました。これは、買収のための借入に加えて、シャイアーが抱えていた債務を引き継いだことが原因とされます。この財務不安が、成長期待を上回り、2018年の買収報道中には株価が下落し続けました。

この財務危機とも言える状況で武田は「選択と集中」を行いました。一般向け医薬品を生産する武田コンシューマーヘルスケアを2,420億円で売却。さらにドライアイ治療薬シードラを5,500億円で売却しました。

さらに、特に2020年以降、業績が好調です。一見コロナ特需か?と考えますが、IR資料には武田は慢性疾患や生命を脅かす疾患に対するものが多くコロナの影響はそこまで多くないと記載されています。つまり一時的要因で業績が伸びた訳ではない、と解釈できます。

この好調を支えるのがエンティビオやタケキャブなどの消化器系疾患の医薬品です。

エンティビオとタケキャブの2022年収益は2016年と比較しそれぞれ6倍、12倍と急成長しています。特にエンティビオは2016年全体の売上に占める割合は4.7%でしたが、2022年においては約15%と、主力医薬品に成長しました。

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出典:各年度決算短信より作成

本業が好調な場合、現金も潤沢です。2020年から2022年にかけて、フリーキャッシュフローはプラス1兆円前後で推移しています。その結果、2022年3月の、純有利子負債は約4兆4,000億円です。ピークから3年で、約1兆円の返済を行いました。

また、最近の2023年3月期における有利子負債の返済予定額は、当初は3,000億円でしたが、2,000億円の追加返済を行い、財務面での不安を解消するために注力しています。

買収当初は期待よりも不安が上回っていましたが、本業に注力し、選択と集中を行うことで着実に成長していると考えます。

Next: 高配当は維持される?武田に投資するリスクと魅力

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