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中国大手スーパーが軒並み存続危機、なぜテック企業に惨敗?日本でも起こる小売の地殻変動=牧野武文

競争激化が止まらぬスーパー業界

このアリババの新小売に呼応して、新小売スーパーに参入したのが永輝です。アリババのフーマフレッシュとほぼ同じ業態の「超級物種」(チャオジーウージョン)を展開しました。

永輝は2001年創業の比較的新しいチェーンスーパーです。しかも、過去、中国市場の中で、カルフールやウォルマートというグローバルブランドスーパーとの競争を勝ち抜いてきた実力派です。

中国のスーパーの歴史は、仏カルフール、米ウォルマートが上陸をした90年代後半に始まります。両社の戦略は郊外型大型店でした。ショッピングモールと同じように大きな駐車場を備え、大量の商品を扱う。週末に家族で郊外スーパーに出かけ、1週間分の食材を買うというのが中国人の憧れになりました。その時、永輝は逆をいったのです。郊外でカルフールに正面から対抗しても勝ち目は薄い。そこで、都市の駅近の都市型スーパーを目指しました。

2000年代後半になると、ECが普及をし、急激な経済成長で、多くの現役世代の労働時間が長くなると、郊外のスーパーに行く人が減り始めました。自宅の最寄り駅で降りて買い物をして帰るというスタイルが定着をし始めました。さらにコンビニの出店が進むと、まとめ買いをするのではなく、都市型スーパーやコンビニ、ECを組み合わせ、必要なものは必要な時に買うという買い物の断片化が始まります。ここに永輝の都市型中型店戦略がうまくはまりました。

また、カルフール、ウォルマートは業績を拡大するために、生鮮食料品以外の服飾、家電なども広く扱うようになり、百貨店化をしていきます。すると、永輝は生鮮食料品に特化をしていきます。直営農園、直営牧場を増やしていくなど、生産から流通、小売までを一貫して行い、品質の高い生鮮品を提供するスーパーというブランドイメージが確立していきます。これも受けました。

こうして、全国584都市に1037店舗を展開するチェーンスーパーになっていきます。売上額ではウォルマート中国を抜き、中国で最大のチェーンスーパーに成長します。

つまり、永輝はテック企業に苦戦をしているといっても、ダメな企業ではなく、それどころか、生鮮小売業界では圧倒的に強く、戦略にも長けている企業なのです。

なぜ実店舗スーパーの強者が惨敗?

その永輝が始めた新小売スーパー「超級物種」は、正直、惨敗と言っていい状況です。最大で54店舗を展開していましたが、現在、多くの店舗が休業をして、営業をしているのは20店舗ほどに縮小しています。

中国メディアの南方都市報が、永輝内部の人間に匿名で取材をすると、「大量閉店は、上層部の決定。新小売というビジネスモデルと永輝の組織が噛み合わなかった。決して前向きな決断ではない」という答えが返ってきました。今後は、超級物種で構築した配送網やスタッフを、喫緊のライバルとなっている社区団購に転換をしていく予定だと言います。

なぜ、超級物種はうまくいかなかったのでしょうか。これは、他の宅配スーパーにも共通することですが、近隣配送というのはものすごくコストのかかるサービスなのです。

全国をネットする宅配便企業では、全国の端から端まで荷物を運ぶと言っても、幹線部分は大量の荷物をまとめて運べるので、1個の荷物あたりのコストは限りなくゼロに近づけることができます。しかし、最後のラストワンマイル部分、各家庭に配達する部分は1つ1つ人が回るしかなく、コストが高くつきます。宅配便企業のモデルによっても異なりますが、配送コストの半分程度はラストワンマイル部分というのが一般的です。

新小売スーパーでは、このラストワンマイル部分の配送チームを自前で用意しなければなりません。一般には電動バイクで配達をしますが、一度に運べるのは10件程度です。これを仮に1時間で配達し切れるとすると、1日に1人が運べるのは80件。アリババのフーマフレッシュでは、1日のオンライン注文件数の目標値を5,000件に置いています。ということは、60人以上の配送スタッフが必要になります。

1人の月の人件コストが25万円だとします。月給だけではなく、人材採用コスト、管理コスト、福利厚生なども必要なので、これぐらいはかかります。すると、月25日稼働で、1日のコストは1万円。これで80件を運ぶのですから、1件あたりの配送コストは125円になります。外売(フードデリバリー)の配送料は3元から10元ぐらいを注文者から取るので、125円(約7元)という推計は現実にも合っているように思います。

Next: 配送コストに耐えられない既存スーパー業者。日本も同じ道をたどる?

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