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中国大手スーパーが軒並み存続危機、なぜテック企業に惨敗?日本でも起こる小売の地殻変動=牧野武文

配送コストに耐えられない

しかし、これはあくまでも理想状態での話です。想定した5,000件の注文があればいいですが、半分の2,500件の注文しかなければ、配送コストは250円に跳ね上がります。配送スタッフは暇な時間が多くなり楽ができるかもしれませんが、経営的には厳しくなります。客単価が70元(約1,200円)程度のスーパーで、しかも生鮮食料品は利幅が圧倒的に小さい中で、250円の余分なコストをかけるというのは致命的です。

永輝の店頭売りのデータによると、生鮮食料品の粗利率は13%台後半から14%前半を推移しています。仮に客単価1,200円、粗利率14%だとすると、粗利は168円。配送料125円を顧客から取ればなんとかなりますが、フーマフレッシュのような配送料無料はとてもできません。ましてや、配送スタッフを遊ばせてしまうと、配送コストは跳ね上がり、容易に赤字になってしまいます。

宅配注文は受ければ受けるほど赤字になる。そうなると、スタッフも宅配注文を拡大しようというモチベーションが削がれます。実際にそういうことがあったかどうかまではわかりませんが、新小売チームが宅配注文を拡大するために大型の予算を使うキャンペーン企画を提案すると、店舗チームから嫌な顔をされるということは往往にして起こりがちです。赤字だから増やせない。増えないから赤字になる。悪いスパイラルに陥ってしまいます。

なぜアリババは利益を出せるのか?

アリババのフーマフレッシュは、この問題をどのように解決しているのでしょうか。

フーマフレッシュがスタートした時に、アリババの張勇(ジャン・ヨン、ダニエル・チャン)CEOは、「各店舗で1日5,000件のオンライン注文獲得を死守しろ」と強い口調で檄を飛ばしたと言います。この5,000件という数字はとんでもない数字でした。

フーマフレッシュの標準店舗は4,000平米です。しかも、1/3はイートインコーナーになっているので、普通に考えて平均来店客数は3,000名がいいところです。2020年のスーパー全体の平均来店者数は、中国チェーンストア経営協会によると、1日1201人です。これは小規模スーパーも含めた数字ですが、大型店でも3,000人から4,000人程度です。

ダニエル・チャンCEOは、それ以上のオンライン注文を取れというのです。2017年にフーマフレッシュが始まった頃は、なりふりかまわずオンラインに誘導するという感じでした。オンライン注文の割引クーポンを乱発するのは当然として、店頭で買い物をしてセルフレジで決済をしようとすると、スタッフが近づいてきて、「その商品、自分でお持ち帰りにならなくても、宅配にできますよ」と案内されます。まずは一度宅配の便利さを体感してもらって、以後、使ってもらえるように地道な努力の積み重ねをしていました。

つまり、フーマフレッシュは、自前の配送チームを持っているため、1日5,000件は運ばないと、スタッフが遊んでしまい、宅配コストが上がってしまうのです。宅配料は無料ですから、粗利の中になんとしても吸収しなければならない。そのためには配送スタッフを最大限活用する。それには5,000件以上を運ぶ必要があるという計算があったのです。

さらに、フーマフレッシュは200店舗以上を展開していますが、有望な地域に集中出店をするという戦略を取っています。アリババはECタオバオの購入履歴データを持っているので、どの地区に購買力の高い層が住んでいるかがわかっています。その地域に、1つの店舗が半径3kmをカバーするエリアを隣接するように並べていくことで、有望地域全体をカバーしていきます。多くの都市では、中心部や住宅区はフーマフレッシュの複数の配送エリアによりカバーされていますが、郊外はほとんど出店されていません。

この有望な地域に、エリアを隣接させカバーするということで、配送コストを下げています。つまり、店舗Aの配送が立て込んだ時は、注文を隣の店舗Bに転送し、店舗Bの配送スタッフが配送をします。こうすることで、配送スタッフを遊ばせることなく活用することができ、配送コストを抑えることができています。

しかし、考え方は簡単ですが、実際にこれを管理するシステムの開発は簡単ではありません。リアルタイムで需要予測をしながら、配送スタッフを効率的に動かすアルゴリズムを考案する必要があります。ですから、フーマフレッシュは、表面的には白菜や大根を売っているスーパーですが、運営をするのには高い技術力を持ったテック企業でないと厳しい面があります。だからこそ、アリババは優位性があると見て、生鮮小売に参入したわけです。

Next: 「テック企業」以外には不可能。すべての小売が吸収されていく

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