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中国大手スーパーが軒並み存続危機、なぜテック企業に惨敗?日本でも起こる小売の地殻変動=牧野武文

「テック企業に負けた」スーパーマーケット

最もよく戦ったのは、業界のリーダーでもある永輝でした。永輝は自らも新小売スーパーを出店します。そして、生鮮ECが登場すると、自らも生鮮ECを始めます。社区団購が登場すると、永輝は自ら社区団購サービスの準備を始めました。他のスーパーもこの永輝の動きをお手本に、次から次へと登場するライバルに対応をしてきました。

しかし、結果から言えば、「テック企業に負けた」と言わざるを得ません。なぜ、スーパーはテック企業に勝てないのでしょうか。

その答えを先に言ってしまうと、スーパーは商品に注目してビジネスを行います。商品をどうやって生産するか、どうやって流通をさせるのか、どうやって商品を消費者に渡してお金に転換をするのか。常に商品に注目します。

一方、テック企業は人に注目します。人はどのような時に白菜を欲しいと思うのか、どのような場と環境を用意すれば白菜にお金を支払うのかと考えます。この違いが決定的なのです。

と言っても、これだけの説明だと、なかなかピンときていただけないと思います。そこで、今回は、スーパーが戦ってきた道のりを振り返りながら、スーパーとテック企業の発想の違いについて考えていきます。

スーパーとテック企業の差

新小売スーパーは「宅配もするスーパー」と説明されることが多く、それは間違いではありませんが、説明が不足しています。注文方法は「スマホ注文/店頭で購入」の2通り、受け取り方法は「宅配/自分で持ち帰り」の2通りがあり、これを都合に合わせて自由に組み合わせることができます。

「宅配もできるスーパー」では「スマホ注文→宅配」「店頭→持ち帰り」の2つしかできません(最近はスマホ注文→店頭受け取りにも対応して始めている)が、新小売スーパーでは2×2の4通りの買い方ができるということです。

どのような買い方であっても、必ず不便さはつきまといます。「店頭→持ち帰り」では、行く時間がない、歩きなので重たい商品は買わないということがよくあります。「スマホ注文→宅配」も必ずしも便利さだけではありません。すぐ欲しいのに待っていなければならない。出かける用事ができたのに、配送を待たなければならないなどがあります。

つまり、宅配もできるスーパーといっても、自宅にいる時間が長く、時間を自由に使える人しかなかなか利用できないのです。簡単に言えば、専業主婦ということになりますが、中国は夫婦ともに働くのが当たり前で、専業主婦というのは引退をした高齢者ぐらいです。普通の人がスーパーを利用できるのは、仕事が終わって帰宅する前のわずかな時間ですが、その時間は早く帰りたいのに、スーパーは混雑をしています。

このような消費者の課題をすべて解決することは難しいことですが、新小売スーパーではかなりの部分解決ができます。例えば、仕事が終わって、地下鉄の中で食材をスマホ注文して、帰宅時間に合わせて配達してもらう。あるいはスマホ注文をしておき、店頭受け取りにし、ついでにデザートやお酒は、店頭で現物を見てから追加購入して一緒に持ち帰る。店頭で食用油が切れかかっていることを思い出したけど、自分で持って帰るのは重たいので、宅配をしてもらう。レトルト食品はスマホ注文でいいけど、カニは現物を見て、活きのよさそうなカニを自分で選びたい。

こういうことを自在に組み合わせることができます。

消費行動の組み合わせ数を増やすことで、消費行動の課題が解決され、新小売スーパーを利用する機会を増やしているのです。これが「オンライン小売とオフライン小売を深く融合させる」ということです。

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