欧米のロシアへのエネルギー依存からの脱却は簡単ではない。8日にはバイデン大統領がロシアから原油などのエネルギーの輸入を全面禁止する大統領令に署名したが、下院法案は採決が遅れている。日本のマスコミは「米国のロシア産原油輸入割合は1%程度(だから大した損害ではない)」という論調だが、本当にそうだろうか。「ロシア依存からの脱却」は勇ましい虚勢という見方もある。
プロフィール:脇田栄一(わきた えいいち)
FRBウォッチャー、レポートストラテジスト。1973年生、福岡県出身。個人投資家を経て東京都内の大手株式ファンドでトレードを指南。本来は企業業績を中心とした分析を行っていたが、08年のリーマンショックを経験し、マクロ経済、先進国中央銀行の金融政策の影響力を痛感。その後、FRBやECBの金融政策を先読み・分析し、マーケット情報をレポートで提供するといった業態を確立。2011年にeリサーチ&コンサルティング(現eリサーチ&インベストメント)を起業。顧客は機関、個人投資家、輸出入企業と幅広い。
エネルギー「脱ロシア」は困難
欧米のロシアへのエネルギー依存からの脱却は簡単ではなく、つい先日もバイデンが雄弁にロシア産原油禁輸を高らかに宣言したが、現状は以下。
バイデン米大統領は8日、ロシアからの原油や液化天然ガス(LNG)、石炭など化石燃料の輸入を禁止する大統領令に署名したが、ロシア産原油の米国への輸入を禁じる下院法案は採決が遅れている。<中略>
ペロシ下院議長が迅速な法案可決のため同党会派全体および共和党の支持を十分に確保しているのかどうかは不明。<中略>
共和党は8日夜、法案通過の迅速化プロセスの利用に異を唱えたと、民主党関係者が説明。これに対し共和党関係者は、同日遅くまで法案の文言を見る機会を与えられなかったと反論した。 上院で同法案が通過する可能性は8日時点では不透明だ。<以上抜粋>
この行方はわからないが、バイデンの声明報道が出たとき、法案成立が難航するのが目に見えているにも関わらず、軽率な(というか何も知らない)マスコミの報道を基に議論が先走りするといった懸念が(毎度のことながら)よぎったわけです。
そしてどうしても気にかかったのは、専門家とか国際政治学者とか(あとジャーナリストとか現地特派員とか)自称している人たちが「米国のロシア産原油輸入割合は1%程度」(だから大した損害ではない)なんてことを平然とコメントしているのを、これまた日本のマスコミがそのまま軽率に垂れ流していること。
原油であれば輸入割合は確かに少ないが、仮にロシア産の石油製品も含まれるのであれば、20%前後と跳ね上がる。
ショルツ(ドイツ首相)もバイデン同様に、威勢の良いことを言っているが、ここのあたりが混乱を引き起こしているように見受けられる。
ロシアの銀行最大手やエネルギーセクターを標的とする欧州連合(EU)の制裁拡大の取り組みにおいて、ドイツが主要な障害として浮上している。
国際銀行間通信協会(SWIFT)の国際決済ネットワークから排除するロシアの金融機関リストに同国銀行最大手ズベルバンクを加えることに関して、ドイツがこれに抵抗する中心的勢力となっている。<抜粋>
出典:ドイツ消極姿勢でEUの取り組み失速-ロシアのSWIFT排除拡大 – Bloomberg(2022年3月10日配信)
ブログで前回お伝えしたように、ズベルバンクとガスプロムバンクを他銀同様にSWIFT排除する・しないで、コトは大きく異なる。
ドイツも米国も一枚岩ではいかないし、ロシア依存している欧州の国の中には、ドイツと同意見でありながらも、ドイツをスケープゴートに仕立て上げようとすることは上記の記事でも明らか。
ショルツやバイデン、そしてついでにゼレンスキーなどのポピュリストが国民感情を迎合し後先考えずに決定するということであれば、苦労するのは国民だということが今回の紛争でよくわかる構図である。
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